上位ページへ戻る

(スペイン民法)                 元司法書士 古閑次郎

(平成27年3月見直し修正)

3編 第3章 相続

(第5節:有遺言または無遺言相続に共通な規定)

(第1款:寡婦の懐胎中に適用すべき注意事項)

959

寡婦が懐胎していると思料されるときは、父の死後に生まれた子により消滅または減少されるべき(遺産への)権利を有する者にそのことを知らせなければならない。

960

前条に係わる利害関係人は、都市裁判官(Juez municipal)に、または、第1審裁判所がある所では第1審の裁判官に、分娩の仮装を避けるため、または、生まれる新生児が、実際は育たないが、育つとの仮装を避けるために適当な措置を命じるよう請求することができる。

 裁判官は、命じる措置が寡婦の節操と自由を害さないように注意する。

961

959条の通知がなされたか否かに係わらず、分娩の時期が近づいたら、寡婦は同じ利害関係人に知らせなければならない。これらの者は、出産の事実を確かめるため信頼の置ける者を指名する権利を持つ。

 指名された者が寡婦に拒否されると、医者または女性に限って裁判官が指名する。

962

これらの手続の欠如は、それのみでは、分娩の仮装または出生者の生育力の欠如を証明するには充分でない。

963

夫が公署証書または私署証書でその妻の妊娠の確かさを認知しているときは、妻は、第959条の通知を免除される。しかし、第961条の規定は履行しなければならない。

964

懐胎中の寡婦は、裕福であっても、出生して育つ場合にその子が遺産で取得できる部分を考慮して、遺産により扶養されなければならない。

965

分娩が確認されるまでの間、または、流産したか、もしくは、懐胎期間が経過したかにより分娩がなされない確信が得られるまでの間、遺言執行の必要的手続き(juicio necesario de testamentaría)について規定された方式で財物は保全と管理に付される。

966

遺産の分割は、分娩もしくは流産が確認されるまで、または、時間の経過により寡婦が懐胎していない結果となるまでは、中断される。

 しかしながら、財産管理者(administrador)は、事前の裁判上の命令により、債権者に弁済することができる。

967

分娩もしくは流産が確認され、または、懐胎期間が経過したときは、相続財産の管理者はその業務を終了し、相続人またはその法定代理人に業務の計算を提供する。

(第2款:留保(reserva)に服する財物)

968

811条で課される留保の他に、再婚する寡夫もしくは寡婦は、遺言により、無遺言相続により、贈与により、または、他の全ての無償名義(título lucrativo)により、死亡した配偶者から取得した全財物の所有権を前婚の子および卑属に留保する義務を負う。但し、取得財産共通制におけるその者の半分持分は除かれる。

*注:夫婦の共通財産は、一方の死亡時に分割される。)

969

前条の規定は、(再婚する)寡夫または寡婦がその前婚の子から当条で表示された名義により取得した財物に適用され、また、死亡者への心遣いで死亡者の親族から取得した財物に適用される。

970

留保義務は、財物に権利を有する成年である子が明示的にその権利を放棄するとき、または、子がその父もしくは母に、それらが2度目の婚姻をしたことを知って与えた物もしくは残した物に係わるときは、終了する。

971

更に、留保は、再婚した父または母が死亡したときに前婚の子および卑属がいない場合は、終了する。

972

留保する義務にかかわらず、再婚した父または母は、第823条の規定に従がって、家系保留財産(bienes reservables)において(いかなる)前婚の子または卑属に対して割増する(mejorar)ことができる。

973

父または母が前条の権能の全部または一部を使用しなかった場合は、前婚の子と卑属は、遺言(の効力)により先に死亡した配偶者を不均等に相続したとしても、または、その相続を放棄したとしても、卑属の親系での相続規定に従がって、留保されている財物を(均等に)相続する。

 父または母により適法に廃除された子は留保に対しての権利を喪失する。但し、(その者に)子もしくは卑属がいる場合は、第857条および第1642号の規定に従う。

974

2度目の婚姻挙行前に生存配偶者がなした家系保留不動産の譲渡は、前婚の子および卑属に対してその不動産の価額を再婚後から保証する義務を負って、有効である。

975

留保に服する不動産について寡夫または寡婦が再婚後になした譲渡は、抵当法の規定は別として、その死亡の時に前婚の子または卑属が存しない場合にのみ効力を継続する。

976

再婚の前後になした動産の譲渡は、補償する義務は別として、有効である。

977

寡夫または寡婦は、再婚するときは、留保に服する財物全ての財産目録を作成し、不動産の家系保留財産(である旨)の性格(calidad)を抵当法の規定に従って所有権登記に付記登記し、また、動産を(価格)評価する。

978

更に、寡夫または寡婦は、再婚するときは、(次のものを)抵当でもって保証する義務を負う:

① その者の死亡時にある状態での未譲渡動産の返還。

② 発生した損傷、または、その者の過失あるいは怠慢で発生する損傷の弁済。

③ (第三者への)動産譲渡により受領した価額の返還、または、無償で譲渡した場合、譲渡のときにその物が有していた価額の引渡し。

④ 有効に(第三者へ)譲渡された不動産の価額。

979

再婚の場合についての前数条の規定は、同じく、三回目の婚姻およびその後の婚姻に適用される。

980

前数条で課された留保義務は、また、次の者に適用される:

① 婚姻中に婚姻外の子を有していた寡夫、または、寡夫の状態で婚姻外の子を有している寡夫。

② 他人を養子にしている寡夫。但し、養子が、その(亡)配偶者(留保権者がこの者の卑属である)の子である場合は除かれる。

この留保義務は、それぞれ、子の出生または養子縁組から効力を生じる。

3増加権(derecho de acrecer)

981

法定相続においては、相続を放棄する者の持分はつねに共同相続人(coherederos)の持分を増加させる。

982

遺言相続において増加権が生じるためには(次のことを)要する:

① 同一の相続に、または、相続の同一部分に2人以上の者が、持分の特段の指定なくして、招集 (llamar)されること。

② 召集された者の一人が、遺言者より先に死亡すること、または、相続放棄するか、相続無能力になること

983

遺言者が各相続人にある割合を明示的に表示した場合にのみ、持分の指定がなされたものとみなされる。

 “半分で、あるいは、均等に”と言う語句、または、たとえ割合を指定していても、数字的、あるいは、各人を分離財産の所有者とするという表示により、その割合を定めていない語句は、増加権を排除しない。

984

遺産が増加する相続人は、相続を望まなかった、または、できなかった者が取得したであろう権利・義務全部を承継する。

985

必然相続人の間では、自由処分部分が2人以上の必然相続人に残されるとき、または、その1人と第三者の1人に残されるときのみ、増加権は生じる。

 放棄された部分が遺留分である場合は、共同相続人は、増加権ではなく、自己の権利によりそれを相続する。

986

遺言相続において、増加権が生じないときは、代替相続人が指名されていない指定相続人(instituido)の(相続人)不存在持分(porción vacante)は遺言者の法定相続人に移行し、それらの者が、同一の負担と義務をもってそれを相続する。

987

増加権は、また、相続人に対して設定された規定(términos)の下で、受遺者間および用益権者間に生じる。

(第4款:相続の承認と放棄)

988

相続の承認と放棄は、完全に任意かつ自由な行為である。

989

承認と放棄の効力は被相続人の死亡時に遡及する。

990

相続の承認または放棄は、部分的、期限付き、条件付きですることはできない。

991

何人も、相続されるべき者の死亡および自己の相続権が確かでないと、承認も放棄もできない。

992

自己の財物の自由処分ができる者は相続の承認または放棄をすることができる。

 貧者に残される遺産の承認は、貧者の評定と財物分配のために遺言者が指定した者、その者がいない場合は第749条が示す者が当たり、また、限定承認されたものとみなされる。

993

(財物を)取得する能力がある組合(asociaciones)、会社および財団の法定代表者は、それらへの相続を承認することができる。更に、放棄するためには、公共省(Ministerio Público)の意見を聞いて、裁判所の承認を要する。

994

官設公共施設(establecimientos públicos oficiales)は、政府の承認なしには、相続の承認も放棄もできない。

995

婚姻している者が限定承認なしに相続を承認して、その配偶者が承認に同意していないときは、夫婦財産制(sociedad conyugal)の財物は相続債務に責任を負わない。

996

疾病または身体もしくは精神の障害(deficiencias)による無能力の判決で他の処分がなされていない場合で、保佐に付されている者は、保佐人の同意を得て、相続の単純承認または限定承認することができる。

997

相続の承認と放棄は、一旦行われると、撤回できない。また、同意を取消す瑕疵がある場合または未知の遺言書が出てきた場合を除いて取消しできない。

998

相続を単純承認または限定承認(a beneficio de inventario)することができる。

999

単純承認は、明示または黙示ですることができる。

  明示の単純承認は、公署証書または私署証書でなされる。

黙示の単純承認は、承認の意思を必然的に予想させる行為、または、相続人の地位がないと行使する権利がないと予想させる行為によりなされる承認である。

単なる保存行為または一時的管理行為は、それらの行為と共に相続人の名義(título)または地位が得られなかった場合は、相続の承認を意味しない。

1000

(次の場合)相続を承認したとみなされる:

① 相続人が、自己の権利を第三者、その共同相続人全員またはそれらの1人に売却、贈与もしくは譲渡するとき。

② 相続人が、その共同相続人の1人または2人以上の者(の利益)に、たとえ無償であっても、相続を放棄するとき。

③ 相続人が、その共同相続人全員(の利益)に無差別に代償を得て(por precio)相続を放棄するとき。但し、その放棄が無償であって、利益を受ける共同相続人が放棄持分で増加されるべき者たちである場合は、相続は承認されたとみなされない。

1001

相続人が自己の債権者を害して相続を放棄する場合、それら債権者は裁判官に自らがその相続人の名で相続を承認する許可を与えるよう請求できる。

その承認は、債権者の債権を満足する限度で効力を有する。超過部分は、それがある場合、放棄者には属しなく、本法の規定に従がってそれに対応する者が取得する。

1002

遺産のある物を窃取または隠匿した相続人は、放棄する権能を喪失し、刑罰を課されることは別として、単純相続人の地位に置かれる。

1003

単純承認により、または、限定承認がないと、相続人は、相続財産のみでなく自己の財産をもって相続債務全部に責任を負う。

1004

被相続人の死亡後9日経過するまでは、相続人に対して承認または放棄するよう訴え(acción)を起こすことはできない。

1005

利害関係がある第三者が、相続人が承認または放棄するために訴えを提起すると、裁判官は、この相続人にその意思表示をなすために30日を超えない期限を示さなければならない。その意思表示をしない場合は、承認したものとみなされると告知される。

1006

相続人が承認も放棄もしないで死亡すると、その者が持っていた権利はその者の相続人に移る。

1007

相続人が複数招集された場合、ある者は承認し、その他の者は放棄することができる。同じく、相続人の各人は単純承認するか、限定承認するかの自由を享受する。

1008

相続の放棄は、公署証書により、または、遺言相続もしくは無遺言相続の審理管轄権を有する裁判官に文書を提出して、しなければならない。

1009

遺言と無遺言によって同じ相続に召集され、前者の資格(título)について放棄する者は、それら2つについて放棄したとみなされる。

 無遺言相続人として放棄したが、遺言相続の資格が知らされていないと、遺言相続について承認することができる。

(第5款:相続の限定承認と熟慮権)

1010

たとえ遺言者が禁止していても、いかなる相続人も、限定承認することができる。

  また、熟慮するために相続の承認または放棄の前に財産目録を作成することを請求できる。

1011

相続の限定承認は、公証人の前で、または、遺言もしくは無遺言相続手続きに備える(prevenir)管轄権を有するいかなる裁判官に文書を提出して、することができる。

1012

前条に係る相続人が外国に居る場合は、当該意思表示は、その地で公証人機能を果たす権限があるスペインの外交官または領事の前でなすことができる。

1013

前数条に係る意思表示は、次数条に示される方式と期間内に相続財産全部の忠実かつ正確な棚卸(inventario)がその前後になされない場合は、効力を生じない。

1014

相続財産またはその一部をその支配下に置いて、限定承認または熟慮権を利用しようとする相続人は、被相続人が死亡した地に居住している場合は、相続人であると知った日から10日以内に遺言相続または無遺言相続手続きの審理管轄権を有する裁判官にそれを表明しなければならない。その外に居住している場合は、期間は30日となる。

 これらの場合、相続人は、棚卸をする請求、および、債権者と受遺者が都合が良ければそれに立会うために集まるようそれらの者の召喚の請求を同時にしなければならない。

1015

相続人が、その支配下に相続財産またはその一部を置いていなく、また、相続人としてのなんらの行為もなしていないときは、前条の期間は、裁判官が第1005条に従がって相続を承認もしくは放棄するために定めた期間が過ぎる日から、または、承認もしくは相続人としての行為をなした日から数える。

1016

2条に係る場合以外で、相続人に対して訴訟が提起されていない場合は、その者は、遺産請求権が時効にかからない間は、限定承認でき、または、熟慮権をもって承認できる。

1017

棚卸は、債権者と受遺者の召喚から30日以内に開始し、60日以内に終了する。

 財物が遠隔地にある、もしくは、量が沢山あることにより、または、その他の正当事由により、当該60日が充分でないと思われる場合は、裁判官は、1年を超えない範囲で、必要と判断する期間延長することができる。

1018

相続人の過失または怠慢で、前数条に規定された方式で期間内に棚卸が開始または終了しない場合は、単純承認するものとみなされる。

1019

熟慮権を留保した相続人は、棚卸が終了した日から数えて30日以内に、裁判所に承認か放棄かを申出なければならない。

 その申出をなすことなく30日経過すると、単純承認するものとみなされる。

1020

いずれにしても、裁判官は、利害関係人の申立てで、棚卸期間中、相続承認まで、民事訴訟法における遺言相続の訴訟の規定に従がって相続財産の管理・保管を裁決する(proveer)ことができる。

1021

1年以上他人が占有している遺産を裁判上請求する者は、勝訴すると、限定承認を享受するために棚卸をする義務を負わない。また、相続債務には引渡された財物でもってのみ責任を負う。

1022

棚卸の後で相続放棄する相続人がなしたその棚卸は、相続代替者(sustitutos)および無遺言相続人の利益となる。それらの者に対しては、熟慮するための30日の期間および第1019条が規定する申出をなすための30日の期間はその者たちが放棄を知った日の翌日から数える。

1023

限定承認は相続人の利益に次の効力を生じる:

① 相続人は、遺産の財物の範囲内を除いて遺産の債務及びその他の負担を支払う義務を負わない。

(相続人が)被相続人に対して持つ権利と請求権全部を(相続人は)相続財産に対して留保する。

③ 相続人を害して、相続人の固有財物は遺産に属する財物と混和することはない。

1024

相続人は、次の場合、限定承認を喪失する:

① 知りながら、相続の財物、権利または請求権のなんらかのものを棚卸に含めない場合。

② 債務と遺贈の弁済を完了する前に、裁判所の承認もしくは利害関係人全員の承認なしに相続財物を譲渡する場合、または、売却物の代金についてその(売却)承認が譲許されたときに決定されたとおりに利用しない場合。

1025

棚卸しおよび熟慮期間の間は、受遺者はその遺贈物の弁済を請求できない。

1026

知れたる債権者と受遺者全員が弁済を受け終わるまでは、遺産は管理下にあるとみなされる。

 管理者は、相続人自身または他の者が管理者であっても、管理者として遺産にかかわる権利を行使するため、また、遺産に対して提起される訴訟に応訴するため、遺産の代理権を有する。

1027

管理者は、債権者全員に弁済した後でなければ、遺贈を弁済できない。

1028

債権者間にそれらの債権の優先について裁判が係争中のときは、評価の確定判決(sentencia firme de graduación)が示す順番と程度で弁済される。

 債権者間に裁判が係争中でないと、最初に提出される債権が弁済される。但し、知れたる債権の或るものが優先することが明らかであると、優先債権者の利益に事前の担保(設定)なしには弁済できない。

1029

遺贈が弁済された後で、別の債権者が出現する場合は、それら債権者は、遺産中にそれらの者に弁済する充分な財物がない場合は、受遺者に対してのみ請求することができる。

1030

債権と遺贈の弁済のために遺産の売却が必要なときは、売却は、相続人、債権者および受遺者全員が別の合意をする場合を除いて、無遺言相続手続と遺産管理について民事訴訟法が規定する方式で実行される。

1031

債務と遺贈の弁済に遺産が充分でないと、管理者は、完全に満足を得られなかった債権者と受遺者にその管理の計算を提出する。管理者は、その過失または怠慢で遺産に生じた損害の責めを負う。

1032

債権者と受遺者が弁済を受けると、相続人は、残余遺産を完全に享受することができる。

 遺産を別の者が管理していた場合は、その者は、前条が課する責任の下で、相続人に管理の計算を提出する。

1033

限定承認された遺産の管理およびそれらの権利の擁護のために生じる棚卸費用およびその他の費用は、遺産自体が負担する。但し、相続人がその故意または悪意により個人的に負担を命じられた費用は除かれる。

 相続人が相続放棄する場合、熟慮権を行使するために生じた費用についても同様である。

1034

相続人の特定の債権者は、相続債権者と受遺者が弁済を受けるまでは、相続人が限定承認した遺産の取扱いに参加することはできない。但し、相続人の利益に生じうる残余物の留置または差押えを請求することができる。