(スペイン民法)                  元司法書士 古閑次郎

(平成27年3月見直し修正)

4編 第2章:契約

(第1節:総則)

1254

一人または数人が、他の一人または数人に対して、ある物を給付する、または、ある役務を提供する義務を負うことに同意するときから、契約は存在する。

1255

契約当事者は、法律、倫理または公序に反しないときは、都合が良いと考える約束(pactos)、条項(clausulas)、条件を設定できる。

1256

契約の有効性および履行を当事者の一方の裁量に委ねることはできない。

1257

契約は、それを約定する当事者およびその相続人の間でのみ効力を生じる。但し、相続人については、契約から生じる権利と義務がその性質、約定、または、法律の規定により移転できない場合は除かれる。

 契約に第三者の利益にある約定(estipulación)が含まれている場合、この第三者は、その約定が撤回される前にその者の承諾が債務者に知らされたときは、その履行を請求することができる。

1258

契約は、単なる合意で完全なものとなり、そのときから、明示的に約定されたことの履行のみならず、その性質に従がって信義誠実(Buena fe)、慣習および法律に合致する結果全てについて義務を負わせる。

1259

他人からの授権がない場合、または、その法定代理権を法律上有していない場合は、何人もその他人の名で契約することはできない。

 他人の名で締結された契約で、その他人からの授権がない、または、その法定代理権がない契約は、他方当事者が撤回する前にその他人が追認しない場合、無効である。

1260

誓い(juramento)は、契約中には受け入れられない。受け入れられた場合は、置かれていないものとみなされる。

(第2節:契約の有効性の基本的要件)

1261

次の要件が集まると契約となる:

①契約者の合意。

②契約の本題である特定の目的。

③設定される債務の原因(causa)

(第1款:合意)

1262

合意は、契約を形成すべき物と原因について申込と承諾の一致により表明される。

 申込者と承諾者が遠隔地に居住している場合は、申込者が承諾を知ったときから、または、承諾者がその承諾を発信して、申込者が信義誠実に背くことなく承諾を知らないでいることができなくなったときから、合意は生じる。そのような場合、契約は、申込者の地で締結されたものと推定される。

 自働設備(dispositivos automáticos)を介して締結された契約では、合意は、承諾を表明したときから生じる。

1263

次の者は合意を提供できない:

①親権開放されていない未成年。

②無能力者。

1264

前条に示される無能力性は、法律が定める修正を受ける。また、同じ法律が設定する特別な無能力性を害しないものとみなされる。

1265

錯誤(error)、強迫(violencia)、脅迫(intimidación)または詐欺(dolo)によりなされた合意は無効である。

1266

錯誤が合意を無効にするためには、その錯誤が、契約の目的物の本質に掛っているか、または、契約締結の動機を主に起させたその物の状況に掛っていなければならない。

 人についての錯誤は、その者への思い入れ(consideración)が契約の主要な事由であったときのみ、契約を無効にする。

 計算の単純な錯誤は、その訂正のみ生じさせる。

1267

合意を得るために抵抗できない力を用いるときは、強迫となる。

 当事者の一方に、その人身およびその財物または配偶者、卑属もしくは尊属の人身または財物に急迫かつ重大な災いが降りかかるとの合理的な恐怖を生起させるときは、脅迫となる。

 脅迫を評価するためには、人の年齢と状態に留意しなければならない。

 服従(sumición)と敬意が払われるべき者を不快にさせる恐れは、契約を無効にしない。

1268

強迫または脅迫は、契約に介入しない第三者が行使したとしても、債務を無効にする。

1269

契約当事者の一方の欺罔的言葉または策謀(maquinaciones)でもって、他方が、それらがなければ、なさなかった契約を締結するように誘導されるときに、詐欺となる。

1270

詐欺が契約を無効にするためには、その詐欺が重大で、かつ、両当事者により行使されなかったことが必要である。(*注:つまり、一方のみが行使した場合、無効となる。)

 附属的詐欺(dolo incidental)は、それを行使した者に損害賠償責任をのみ負わす。

*注:dolo incidentalとは、相手を決心させるまでに至らない詐欺である。)

(第2款:契約の目的)

1271

商取引の外にない物全ては、将来物であっても、契約の目的となることができる。

 将来遺産については、しかしながら、第1056条の規定に従がって、財産の分割および他の分割処分を生前に実施することを目的とする契約以外締結することはできない。

 同じく、法律または善良な慣習に反しない役務全ても契約の目的とすることができる。

1272

不能な事物(cosas)または役務は、契約の目的とすることはできない。

1273

契約の目的は、その種類に関しては特定物(cosa determinada)でなければならない。量における不確定さは、当事者間で新たな約定をなすことなく量を決めることができるときは、契約の存在に対して障害とはならない。

(第3款:契約の原因(causa)

1274

有償契約においては、他方によるある物またはある役務の給付もしくは約束は、各契約当事者にとって契約の原因とみなされる。報償契約(contrato remuneratorio)においては、報償を受ける役務または利益が契約の原因とみなされ、単純な慈善契約(beneficencia)では、慈善家の単なる贈与(liberalidad)が契約の原因とみなされる。

*注:報償契約とは、有償契約と無償契約の中間的なもので、謝礼みたいなもの)

1275

原因のない、または、不法原因の契約は、効力を生じない。原因が法律または倫理に反するときは、それは不法である。

1276

契約の中での虚偽原因(causa falsa)の表示は、その契約が他の真実かつ合法な原因に基いていることが証明されない場合は、その契約を無効にする。

1277

契約の中に原因が表示されていなくとも、債務者が別段の証明をしない間は、契約は存在し、合法的であると推定される。

(第3節:契約の効力)

1278

契約は、いかなる方式で締結されようとも、その有効性の基本的条件が満たされていると、その契約は義務的である。

1279

法律がある契約の権利義務(obligaciones)自体を有効にするために証書(escritura)の作成または他の特別の要式を要求するときは、契約当事者は、合意をなしたときから、その要式、および、その有効性に必要なその他の条件を満たすよう互いに強制することができる。

1280

次のものは公署証書(documento público)で証されなければならない:

①不動産上の物権の設定、移転、変更または消滅を目的とする法律行為および契約。

②6年以上の不動産の賃貸借で第三者を害する場合。

③夫婦財産契約とその変更。

④相続権または夫婦財産制の権利の譲渡、否認および放棄。

⑤婚姻を締結するための代理権(poder)、争訟(pleito)の包括代理権および訴訟(juicio)で提出しなければならない特別代理権、財物を管理する代理権、および、公正証書(escritura pública)で作成されたもしくは作成されるべき法律行為を目的とする、または、第三者を害すべき、その他のいかなる代理権。

⑥公正証書に明記された法律行為から生じる請求権または権利の譲渡。

  更に、契約当事者の一方または両方の給付の額が1,500ペセタを越える契約は、私文書であっても、文書で証されなければならない。

*注:公正証書は公証人が認証する公署証書である。)

(第4節:契約の解釈)

1281

契約の用語が明瞭で、契約当事者の意図について疑問を呈しない場合は、その条項の字義に従う。

 言葉が当事者の明らかな意図に反すると判断される場合は、その意図が言葉に優先する。

1282

契約当事者の意図を判断するには、それらの者の契約時およびその後の行為に主として着目しなければならない。

1283

契約用語の一般性(generalidad)がどうであろうとも、当事者が契約しようと考えたところの用語と異なる物および場合がその契約に包含されているとみなされるべきではない。

1284

契約のある条項が複数の意味を許容する場合は、それが効力を持つためにより適切な意味で理解されなければならない。

1285

契約の条項は、全条項の総体から得られる意味を疑義ある条項に割当て、互いに関連させて(las unas por las otras)解釈されなければならない。

1286

異なる意味を持ち得る言葉は、契約の性質と目的により合致する意味で理解される。

1287

その国の慣習が、通常設定される条項の脱漏を補完して、契約の曖昧さを解釈するために考慮される。

1288

契約の不明瞭な条項の解釈は、その不明瞭性を生じさせた側に便宜を与えてはならない。

1289

前数条の規定で疑義を解消することが全く不可能なときで、疑義が契約の本質でない事項に係わっていて、かつ、無償契約である場合は、疑義は、権利と利益の移転が小さくなる方向で解消される。有償契約の場合は、利益を相互に大きくする方向で解消される。

 その解消が本条で取り扱われている疑義が契約の主要目的に係わっていて、それで契約当事者の意図または意思がどれであったか知ることができない場合は、契約は無効である。

(第5節:契約の解除(recisión)

1290

有効に締結された契約は、法律が規定している場合は解除できる。

1291

(次の契約は)解除することができる:

①後見人が裁判所の承認なしに締結することができた契約で、被後見人がその契約の目的であった物の価値の1/4以上の損害(lesión)を被った場合。

②失踪者(ausentes)を代理して締結された契約で、その失踪者が①に係わる損害を被った場合。

③債権者を欺いて締結された契約で、債権者が給付物を回復できないとき。

④係争物に係わる契約で、係争当事者または権限ある司法当局の知見と承認なしに被告により締結されたとき。

⑤法律が特別に解除することができると定める他の契約。

1292

弁済時に債務者が履行強制され得なかった債務のために(債務者が)支払不能の状態でなした弁済は解除することができる。

1293

1291条の①と②の場合以外は、契約は、損害(lesión)を理由として解除されない。

1294

解除権は補助的である。被害者に損害回復を得る他の法的救済手段が欠けているときのみ行使することができる。

1295

解除は、契約の目的であった物とその果実の返還義務、および、価額とその利息の返還義務を負わせる。結果として、解除を主張した者が自己の返還責任物を(相手に)返還できるときに、解除は効果を発揮できる。

 契約の目的物が悪意でない第三者の支配下に適法に存するときは、解除は生じない。

 この場合は、損害の原因者に損害賠償を請求することができる。

1296

1291条②に係る解除は、裁判所の許可を得て締結された契約については生じない。

1297

債務者がその契約(の効力)により無償で財物を譲渡した契約は、全て、債権者を欺いて(1291条③)締結されたと推定される。

 また、いかなる審級においても前に自己に対して有罪判決(sentencia condenatoria)が宣言された者、または、財物の差押え命令が発給された者が有償名義でなした譲渡は、詐欺的と推定される。

1298

債権者を欺いて譲渡された物を悪意で取得した者は、なんらかの事由で物を返還することができない場合、譲渡により債権者が被った損害を(債権者に)賠償しなければならない。

1299

解除請求権は4年間存続する。

 後見に服している者および失踪者については、その4年間は、前者の無能力が止むまで、または、後者の住所が知れるまでは、開始しない。

(第6節:契約の無効(nulidad)

1300

1261条が規定する要件が満たされる契約は、契約当事者に損害を与えなかったとしても、法律に従って契約の効力を失くす瑕疵のなんらかを持っている場合は、取消すことができる。

1301

無効確認請求権(acción de nulidad)4年間のみ存続する。この期間は次の時から経過し始める:

 強迫または脅迫の場合では、これらが止んだ日から。

 錯誤、詐欺または原因の不実表示(falsedad de la causa)の場合では、契約の成就の日から。

 請求権が未成年者または無能力者により締結された契約に係るときは、後見から離れた時から。

 請求権が、他方配偶者の同意が必要なときで、配偶者の一方が他方の同意なしに実施した行為または契約の効力を失くす方向に向けられる場合は、夫婦財産制または婚姻の解消の日から。但し、以前に当該行為または契約について充分な知見を有していた場合は除かれる。

1302

契約の効果として主に義務を負う者または補充的に負う者は、契約の無効確認請求権を行使できる。しかしながら、能力者は、契約した相手方の無能力を主張できない。また、強迫もしくは脅迫を引起した者、詐欺を用いた者、または、錯誤を生じさせた者は、自己の請求権を契約のこれらの瑕疵に基かせることはできない。

1303

債務の無効が表明された(declarado)ときは、当事者は、次の数条が規定する場合を除いて、契約の内容となっていた物をその果実と共に、また、価額を利息と共に相互に返還しなければならない。

1304

無効が当事者の一方の無能力に由来しているときは、無能力者は、受取った物または価額で利益を得た限りで(en cuanto se enriqueció)、返還の責めを負う。

1305

無効が契約の原因または目的の不法性から来ているときで、その行為が両当事者に共通の犯罪または軽犯罪を構成する場合は、それらの者の間では請求権はまったく生じない。また、それらの者に対して犯罪または軽犯罪の結果または手段(instrumentos)について刑法の規定が適用され、さらに、契約の内容であった物または価額にも同様に適用される。

 この規定は、当事者の一方に犯罪または軽犯罪があった場合に適用される。但し、犯人でない者は、給付物を請求することができ、また、約束を履行する責めを負わない。

1306

瑕疵ある原因(causa torpe)に基礎を置く行為が犯罪も軽犯罪も構成しない場合は、次の規則が適用される:

①その過失が当事者両方から出ているときは、どちらも、契約により給付した物を回復できず、他方が申し出た事の履行を請求することはできない。

②その過失が当事者一方から出ているときは、その者は契約により給付した物を回復できず、他方が申し出た事の履行を請求することはできない。瑕疵ある原因に関係がない他方は、給付した物を(回復)請求でき、申し出た事を履行する責めを負わない。

1307

無効の表明によって物の返還義務を負う者が(その物を)喪失したことで返還できないときは、収受した果実と喪失時のその物の価値を、その日からの利息を付して、返還しなければならない。

1308

当事者の一方が無効の表明の効果で(返還)義務を負わされた物の返還を実現しない間は、他方は、その者に責任がある事を履行するよう強制されない。

1309

無効確認請求権は、契約が有効に追認された(confirmado)時から消滅状態となる。

1310

1261条の要件を満たす契約のみ追認できる。

1311

追認は明示的または黙示的になすことができる。無効原因を援用する(invocar)権利を有する者が、無効原因を知って、その原因が止んで、無効原因を放棄する意思を必然的に意味する行為を実行したときは、黙示的追認があるとみなす。

1312

追認には、無効確認請求権を行使する権利がない(当事者の)一方がさらに追認することを要しない。

1313

追認は、契約に存する瑕疵を契約締結のときから浄化する。

1314

契約の無効確認請求権は、また、契約の目的物がそれを行使できる者の故意または過失により喪失したときも、消滅する。

 請求権の事由が契約当事者の一方の無能力であった場合は、物の喪失が請求者の能力回復後にその者の故意または過失により生じたときでないと、物の喪失は請求権行使に障害とはならない。

 

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