スペインの婚姻、夫婦財産契約、別居と離婚

司法書士 古閑次郎
神奈川県司法書士会

別居と離婚

現在別居と離婚について効力を有する法規定は、200578日の法律第15号により導入されているものである。この法律によって別居と離婚に関して民法典と民事訴訟法が修正されている。

 夫婦の婚姻解消を請求する自由度は大きくなっている。(裁判上の)離婚請求には、夫婦の一方が婚姻解消を望むだけで充分であり、他方は請求に反対できなく、また、いくつかの例外を除いて裁判官が請求を退けることができない。よって、婚姻解消請求を許容する事由が列挙されていた法改正以前のような、ある正当原因で婚姻解消を正当化する必要はなくなった。
 更に、請求に必要な婚姻期間が劇的に減少した。2005年以前は、その期間は1年であったが、現在は、裁判上の別居または離婚を求めるには、子または請求配偶者の前もっての同居の中断・解消の正当利益の場合(例えば、それらへの虐待)を除いて、婚姻してから3月経過で充分である。

1.裁判上の別居
 これは離婚とは異なり、夫婦が婚姻を解消しないことを決めて、婚姻の同居義務を回避することが両者にとって都合が良いと考えるときに裁判上の別居がなされる。現在は、裁判所への離婚請求のための事前の別居は必要ではなくなった。民法典第81条により次の場合、婚姻締結の形態に係わらず、裁判上の別居が宣言される。
@夫婦両方が、または、他方の同意を得て夫婦の一方が、婚姻挙行から3ヶ月経過して、請求する場合。請  求には民法に従って作成された(別居・離婚)調整協定の提案書を添付する。
A夫婦の一方のみが、婚姻挙行から3ヶ月経過して、請求する場合。原告たる配偶者、夫婦の子または婚姻 メンバーのいずれか の生命、身体、自由、精神または性的自由・安全に関して危険の存在が証されるとき は、訴訟提起のこの経過期間は必要ない。請求には、別居に起因する結果を調整すべき方策の合理的提 案書を添付する。

2.離婚
 離婚は、単なる裁判上の別居と異なって、婚姻の破綻または解消を意味する。離婚は、婚姻締結の形態に係わらず、夫婦の一方のみの請求により、または、両方の、あるいは、他方の同意を得てその一方による請求によって、前記の裁判上の別居と同じ要件と状況が存在すると、裁判上宣言される。スペインでは我が国のような協議離婚の制度はなく、裁判上の離婚のみが認められているが、離婚要件は後述のように緩和されている。

3.和解
 和解は、別居手続きを終了させ、その手続きで発生した効果を事後無効にする。しかし、両者は、別々に、訴訟を担当している、または、担当した裁判官に通知しなければならない。

4.別居と離婚の効果
(1)調整協定
 これは、夫婦が、別居または離婚後の関係を調整するために適当と思われることを書き記したもので、婚姻生活をどのようにするかではなく、お別れをどうするか調整するための新たな夫婦財産契約である。この調整協定では最低限次の事項を決める必要がある;
@両方の親権に属する子の監護、親権の行使、および、場合によっては、子と同居しな い一方と子の接見・滞在の方法。
A家族の住居と家具の利用の配分。
B婚姻と扶養費用への寄与度、また、場合によっては、その具体化の基礎と担保。
C訴訟が進行しているとき、婚姻財産制の清算。
D場合によって、夫婦の一方を満足させることにつながる定期金の支払い。

別居または離婚の結果を調整するために採用された夫婦間の協定は、子を害する場合、または、夫婦の一方を重く害する場合を除いて、裁判官により承認される。協定の不承認は、理由付き決定によってなされなければならない。この場合は、夫婦は、裁判進行中は、新たな提案を裁判官にその承認のため提出しなければならない。夫婦間に協定が存しない場合は、裁判官は、子、家族の住居、婚姻費用、夫婦財産制の解消およびそれぞれの予防措置または保証についての措置を決定する。これらの措置は、子に影響する場合は、子が充分な判断力があるとき、および、12歳以上であると常に子の意見を聴いて、子の利益のために採用されなければならない。更に、父母の各人の子の扶養の寄与度が、各人の経済的状況および子の必要度に応じて決められる。

 子との面接交渉に関しては、夫婦間に合意がない場合は、裁判官が面接交渉を行う様式、時期と場所を決定する。また、裁判官はこの権利を、中断すべき重大な状況が発生する場合、または、裁判所の決定で課された義務の重大な不履行が発生する場合は、中断することができる。

(2)定期金とその不払い
 刑法は、裁判上の別居、離婚、婚姻の無効宣言で決定された配偶者または子への経済的給付、または、親子関係訴訟、扶養訴訟で決定された子への経済的給付を連続して2ヶ月または不連続で4ヶ月分支払わない場合、3ヶ月から1年の懲役または(最低賃金の)6ケ月分から24ケ月分の罰金に処すると規定している。更に、調整協定で決定された家庭の義務を履行しない者は、その不履行が犯罪を構成しない場合、(最低賃金の)10日から2ケ月分の罰金または1日から30日の地域共同体での労役に処される。 

(3)暫定的処置
 この暫定的措置という名で、別居訴訟または離婚訴訟が続いている間に訴訟で影響を受ける者を保護するために、夫婦間の合意、または、合意がない場合は裁判所の決定がなされる。民法第102条は、訴えが受理されたら法律上当然に次の効果を認めている;@夫婦は別々に暮らすことができ、夫婦の同居の推定は止む。
A夫婦の一方が他方に与えた同意および権限委任は撤回されたものとなる。
B家庭内権能の実行において他方配偶者の特有財産を拘束することができなくなる。
 
 つまり、訴えの提起により裁判官は夫婦の一時的な身体的・経済的分離を命じる。また夫婦の合意がない場合、これらの者を聴取して、次の措置を採用する:
@子の利益のため、両親の親権に服していた子が夫婦のどちらに残るべきか決定し、ま た、本法の規定に従って適切な処置を取る。特に、子の監護をしない一方が子の扶養 義務を果たさせる方式、子と接見および同伴できる時期、方法および場所を決定する。
  例外的に、子を祖父母、親族またはそう同意する他の者に委託することができ、そ して、それらがいない場合、裁判官の権限下で執行される後見機能を付与して適切な 施設に委託できる。
A保護を最も必要とする家族利益を考慮して、夫婦のどちらが住居の使用を継続すべき か定め、同じく、事前の(財産の)棚卸しをして住居内に残す動産と家具、他方が持 って行く財産を定める、同じく、各自の権利を保全するために適当な予防措置を定め る。
B訴訟継続のときの訴訟費用を含めた婚姻費用の各自への負担分を決定し、額の現行化 のための基礎を確立し、そして、これらの事項のため一方が他方に提供しなければな らないものの実効性を確保するために担保、供託、留保およびその他の適当な予防措 置を取る。
 夫婦の一方が親権に服する子の監護に向ける労力は当該費用への負担とみなす。
C状況に応じて、事前の(財産の)棚卸しで夫婦の一方または他方に引渡すべき(婚姻 中)取得財産または共有財産を指定し、受領する共有財産またはそれらの一部および 続いて取得するものに関しての管理・処分および収支報告の義務的提供において遵守 すべき規則を指定する
D場合によっては、夫婦財産契約または公正証書によって婚姻費用に特に当てられてい たそれら特有財産の管理・処分の方式を定める。

これらの暫定的措置は、別居または離婚の訴えをしようとする夫婦の一方が申立てることができる。しかし、これらの暫定的措置は、最初に採用された日から数えて30日以内に管轄裁判官または裁判所に別居または離婚の訴えを提起しないと効果を失うこととなる。暫定的措置の申し立ては、正当事由により夫婦の住居から退去した者から提起できる。退去後30日の期間内に申してると、同居義務の不履行とはならない。

(4)孫と祖父母との関係
 祖父母は婚姻破綻については通常部外者と考えられるが、年少者の安定にとって重要な役割を果たす。この意味で、祖父母が家庭内の紛争状況をコントロールするため孫を援助してその健全な育成に寄与することは肯定される。このために、民法は前述の調整協定に祖父母と孫との面接・交渉することを定めるよう規定しており、また、裁判官が決めることができる旨規定している。

(5)子の保護
 別居と離婚は、父母がその子に対する義務を阻却しない。父母は、調整協定において親権の全部または一部を一方の親が行使することを合意することができる。また、裁判官も子の利益を考慮してそれを決定できる。一方、父母は子の保護の共同行使を合意することができる。この場合、裁判官は、その保護の仕組みが有効に機能するように予防的措置を採用する。兄弟は離れ離れにならないように措置される。

上位ページへ戻る。