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作成者 司法書士 古閑 次郎
(神奈川県司法書士会所属)

スペインでの相続と遺言

第4章 無遺言相続

(1) 手続きされる場合

 遺言なしに死亡したとき、遺言が無効になったとき、または、遺言で財産全部を処分しなかったときは、法律で財産が付与されるべき人が決定される。これを無遺言相続または法定相続(sucesión legal)と呼んでいる。

死亡者は本来その財産を最も近い親族に付与する意思を持っていると仮定すると、無遺言相続は法律がなす遺言の一種を考えられる。

(2) 相続順位

 スペインでは親等の数え方はわが国と同様である。法定相続人には、血族親族、配偶者と国の3種があり、近い親族が遠い親族を排斥する。相続順位は次のようになる:

①親等で最も近い卑属(子、孫、・・・)

②卑属がいないと、最も近い尊属(父母、祖父母、・・・)

③前2者がいないと、生存配偶者

④兄弟姉妹、それがいないと、甥姪

4親等までの残りの傍系親族

⑤国

(3) 代襲相続権

 ある者の親族が、その者が生きていたら、または、相続できたら有していたであろう権利全てを相続する権利を代襲相続権と言う。遺産相続では、相続人が被相続人より長生きすることが基本的要件であり、前に死亡すると、何も取得しない。これは、相続無能力でも生じる。

 ところが、無遺言相続では代襲相続権が働き、ある相続人が被相続人より先に死亡して、または、相続無能力(欠格、廃除)により、相続できないときは、その相続分はその卑属に付与される。代襲相続権は卑属または兄弟姉妹の子(甥姪)に生じ、尊属には生じない。

(4) 子と卑属による相続

 遺言なしに死亡すると、生存配偶者に属する遺留分(遺産の1/3への用益権)は別として、相続の第一順位はその者の子であり、子の間に均等に分配される。

 被相続人の子が孫や曾孫(先に死亡した子の卑属)と競合する場合は、子は固有の権利で相続し、孫と曾孫は代襲権で相続する。生存している子がおらず、孫だけの場合は、孫は代襲権で相続する。つまり、遺産は被相続人の死亡した子の間に均等に配分され、続いて、それらの卑属に分配される。

(5) 父母と他の尊属による相続

 被相続人の子と卑属が存しない場合は、父母が相続する。父も母もいない場合は、祖父母が、祖父母もいないと、曽祖父母が相続する。父母は均等に相続し、父または母のみしか生存していないと、生存している者が遺産全部を相続する。

 同一親系(父系または母系)に属する祖父母しか生存していないと、遺産は頭割りで祖父母が相続する。両方の親系の祖父母が生存していると、遺産の半分は父系の祖父母に属し、残りの半分は母系の祖父母に属する。

 いずれにしても、尊属が生存配偶者と競合する場合は、配偶者は遺留分として遺産の半分について用益権を得る。

(6) 生存配偶者による相続

 卑属も尊属も存しないと、生存配偶者が、被相続人の兄弟姉妹に先んじて、相続する。この場合、その配偶者には裁判上または事実上の別居をしていないことが要求される。つまり、有効な婚姻と同居が必要である。

 一方、前述したように、被相続人の尊属または卑属が存する場合は、配偶者はそれらの者と競合することになる。共通子(卑属)の如何に係わらず、子または卑属と競合する場合は、その配偶者の遺留分は割増遺留分に当てられる遺産の1/3の部分への用益権(使用・収益権)となり、父母または尊属と競合する場合は、その遺留分は遺産の1/2の部分への用益権となる。

(7) 傍系者による相続

 尊属、卑属および配偶者が存しない場合は、4親等までの傍系親族が相続する。遺言がないと、5親等以上の者には相続権はない。

 これには次のように種々の場合が起こり得る:

①被相続人の兄弟姉妹(2親等の傍系)は最初の相続人となる。全血兄弟姉妹は均等に相続し、半血兄弟姉妹は全血の半分を相続する。

②兄弟姉妹が甥姪と競合する場合、甥姪は代襲で相続する。

③甥姪たち(3親等の傍系)が競合する場合、甥姪全てが全血兄弟姉妹の子であると、また、全てが半血兄弟姉妹の子であると、遺産は均等に分配される。全血兄弟姉妹の子と半血の子が競合する場合は、半血兄弟姉妹の子は、全血の半分を相続する。

④血族の伯(叔)父母は、3親等の親族であるが、甥姪が居ない場合に相続する。

3親等の親族が存しない場合、4親等(従兄弟・従姉妹、祖父母の兄弟姉妹、兄弟姉妹の孫)の者が頭割りで相続する。

(8) 国による相続

 相続権のある親族が存しない場合は、国が相続人の地位を取得する。遺産は国により大略次のように分配される:

①遺産の1/3は死亡者の住所地の慈善、教育、社会活動または職業活動を行っている市町村施設に配分され、

②他の1/3は、故人の県の同様な県施設に配分され、

③残りの1/3は、閣議で最も適当と思われる目的に配分される。

 公的行政機関による相続の承認は、遺言または法定相続でなされても、限定相続とみなされる。

(9) 無遺言相続の手続き

 無遺言相続では、相続人と確認されるには一連の手続きが要求される。この手続きは親等により次のように異なる:

①相続人が卑属、尊属または配偶者の場合は、被相続人の最後の住所地の公証人が、“公知の証明書”により相続人確認手続きをする。

②親族がその他の者であると、被相続人死亡時の常居所地の第一審裁判所が、誰が相続人の地位を有しているかを確認する判決の様式を帯びた決定により、相続人確認を行う。

 遺言がないことと、親等は次の書類で証明される:

①死亡証明書。

②遺言がないことを証明する、終意行為一般登録所の証明書。

③被相続人の子の出生証明書。

④死亡した子の死亡証明書。

⑤被相続人の婚姻証明書。

⑥被相続人のDNI(documento nacional de identidad

 更に、被相続人の人的状況・家族の状況を証言する2人の証人が必要である。

 相続人が確認されると、遺産の分配手続きに移行する。以後は、遺言相続と同様となる。