Isabel Perez Vicente
コルドバ大学法学部公法部門
スペインの狩猟法制:展開と現在
(*この文は1991年当事のものです)
1.始めに、歴史的展開
人類の歴史において、狩猟は様々な意味を持ってきている;生存のための単なる闘争(猛獣を倒す、糧を得る・・・)から現在のスポーツへの傾斜まで。狩猟活動は、疑いなく、全人類社会の共通事項であった。よって、人類にとって狩猟行為が持つ重要性を考慮に入れると、種々の文化および異なる社会組織が、それらの主たる関心事の中に狩猟行為を様々な態様で持って来ていることを奇異に思うべきではない。
狩猟活動が法的重要性を獲得したときから、その規制が受けてきた有為転変が何であったか表面的でも復習することは有益である。
ローマ法は狩猟を所有権取得の態様として取り扱っていた。先占(ocupatio)は、それらの態様の中で、言わずと知れた、所有者のいない物(res nullius)(埋蔵物、遺棄物および狩猟獲物)の所有権にアクセスする態様である。
ローマは狩猟する権利を、立法者が与えた権利ではなく、自然権と理解した。ローマ人の間では、狩猟自由の原則が支配しており、その(狩猟する)権利を行使すると請求された土地の所有者の“(ius prohibendi)禁止権”はその自由に対する唯一の制限であった。この時代は、狩猟が国家による規制から自由であった最後の時代であった。文明世界では、どんな種類の動物をいつでも狩猟することはもう二度とできず、また、国庫への税負担なしにはできない。
この狩猟完全自由は中世でいくらかの期間延長された。この点において我々はローマの伝統の残渣を七部法典に見ている。その第3部第28章法律第17条に自由原則が収められている:
“野生獣、鳥類、海と川の魚類は、それらを捕獲する者が誰であろうと、自身の土地で、または、他人の土地で、それらのある物を捕獲しても、それらが捕まえられるとすぐに、その者のものになる。”
しかしながら、ローマ帝国崩壊後に出現した封建制度は狩猟獲物や魚を王国(or王権Corona)の特権(regalía)と考えがちであった。また、この王の特権は、中世の君主が基本的に狩猟利用に森林の一部を留保した”forestis”の制度の進展に由来したのかもしれない。
王の譲許により、狩猟の特権は貴族・僧侶階級および自治体に広がった。よって、狩猟自由の態様は、獲物と魚は共同財物(bienes comunales)であると考えられたそれらの土地では、永久化されたと理解することができる。
しかしながら、その自由自身は公権力介入の不存在と理解することはできない。López Ramónの言によると:中世初期の自治体特別法は、狩猟に関して、獲物の所有権取得のような典型的な民事的問題を規制するだけでなく、警察または監視に関連して、私的活動の上への行政的規制の新しい手段を思い出させる手法を用いて、その他の要素を規制している。人の安全を目的とする、(動物を捕らえるための)罠の規制はこれらの関心事の好例である。
狩猟権に関する特権の概念は、18世紀末と19世紀始めに危機を迎えた。それに関して君主たちの関心事が増大した。例えば、狩猟王Carlos IVは、散在する狩猟関連法律を、第九法令集、第Ⅶ編、第30章、法律第11条に収められる、1804年2月9日の狩猟勅令(Ordenanza)の中に編纂した。その当時では進歩的性格を有し、後世の規制に影響した。当該君主が適用した措置の中で、Andalucía、Aragón、Baleares等の地域での禁猟制度の再興が注意を引く。彼のある意味では新しい見識にもかかわらず、誰が、どのように、いつ狩猟できるかに関して(彼が)保持する懐古主義の概念は、時代のダイナミズムや隣国フランスから由来した新らしい考えに凌駕された。
狩猟や漁猟の特権的権利の相続的性格を考慮に入れると、所有権へそれが緩やかに結合する傾向は論理的と見えた。それゆえ、土地の所有者の交替に従って、時の変転の後で、土地所有権がそこで狩猟する権利と同一とみなされることとなった。この同一視はフランス革命が加速した改革の後で完全になった。
スペインではブルジョア革命により打ち立てられた民主的原則の影響は、Cádizの議会(Cortes)から発せられた具体的措置の中に形成された。つまり、1811年8月6日の政令は“猟の獲物および釣りの獲物と同じ領主権の起源を持つ排他的、特有的および禁止的と称される特権(第7条)”を廃止した。しかしながら、当該廃止は、猟の獲物および釣りの獲物のテーマに係わる王および自治体の特権に影響しなかった。
19世紀の激動はこの問題および他の問題を前進・後退させたが、所有権と結びついた狩猟法の全面的な導入を確実にするべきであった(1834年5月3日の政令、1837年9月13日の政令)。この時代に亘っては、私的所有制度に服していない地域では中世初期に生まれた共通特権の結果である一定の狩猟自由が生きのびていた。
スペインで制定された最初の狩猟法は1879年1月10日に陽の目を見ている。強調すべきは狩猟権を土地の所有権に属するものとしたことである。この法律には論争が多かった。なぜなら、獲物を保全する社会的・経済的目的を守ること関心を払うよりも所有権に大きな保護を与えていたからである。
短命かつ不手際な1879年法は、施行規則を有していなく、1902年5月16日の法律に取り替えられた。この法律は、それを実行に移す施行規則を有して、長命であった。この法律は、可能な程度で、狩猟の自由を回復させ、狩猟獲物を繁栄させることでその自由を帳尻合わせしようとした。このように、明示的に狩猟者に禁猟されていない私有土地においてその趣味の実施を許し(第9条)、1903年7月3日のその施行規則は、収穫物が刈取られた場合は、所有者の文書での許可なしに、(その規則で)示された地域での狩猟の自由な享有を見据えた(第8条)。このように、この法律は半世紀を越えて長く有効であったが、後述する、現行の1970年法で廃止された。
Ⅱ 現行法制度の概観
今日(原文は1991年作成)、動植物保護家の(評価)尺度は、良心的少数派の歴史的遺産ではない;国民の広い分野は、自然保護の態度に大きく傾いている。1978年スペイン憲法は、この社会的関心事を反映して、その第1章第3節“社会・経済的政策の指導原則”の中で環境保護を指摘している。その第45条は、その一段で、人に対して適当な環境を享受する権利とそれを保全する義務を認め、二段で、生活の質を保護・改良し、環境を保護・回復するために、公権力に全ての天然資源の合理的利用を監視するよう命じている。よって、動物は利用できる資源であるので、狩猟スポーツを実施できることは、環境保護・回復の条件付きで、本条に反映されている。
我々の憲法は、その第148条1項11号で、自治州が管轄できる事項の中に狩猟を含めている。それは次のように規定する:自治州は次の事項について管轄することができる:“・・・・・内陸性漁猟、貝漁、農業、狩猟、河川漁猟”。スペイン国を構成する全自治州は、各々の法令で狩猟と河川漁猟に関して排他的管轄を設けて、憲法が付与した権能を行使している。
我々が取り扱って来ている当該テーマにおいて憲法が国と自治州間に設定した管轄の線引きをより完全に把握するために、環境保護に関する基本法制および山岳、森林利用および牧畜道路に関連する基本法制を制定する排他的管轄を国に留保する、憲法第149条1項23号の規定を分析してみる。この管轄権限は1989年3月27日の法律4号“保護される自然空間法”の法的基礎を形成した。この法律は環境保護問題において国が基本的であると考える規範を取入れている。いずれにしろ、自治州も、当該自然空間法で規定された指導原理を尊重して、自己の法令によって実行する責任があるところの環境保護手段を採用することができる。
狩猟は伝統的に私法の関心の対象であり、具体的には民法が、所有権と狩猟権の間に誘発する紛争を担ってきた、しかし、狩猟自由の原則がローマ帝国と共に消滅したことを考慮すると、公法が、狩猟活動から生起する衝突に強力に関わってきた。学説のひとつは、狩猟権の2重(公的と私的)の性格の法的位置は民法第610条と611条に由来し、前者は、ローマ法の古典的定義を口実にして、狩猟と漁猟の対象物についてres nullius(所有者のいない物)の原則を設定し、後者は、特別法が狩猟権と漁猟権を統治すると指摘している、と考えている。
狩猟者の利益と集団の利益との調整、狩猟関係規範違反の場合の罰の決定、狩猟活動実施に課される料金の決定、などは公法に対応する。
ここで、現行の狩猟法に関連する法的・行政的観点、および、我々が大いに関心がある行政違反と罰に関連する事項、また、狩猟許可の厄介な問題を詳細に取扱う。
我々の法制において残念ながら通常であるように、狩猟法はその実質的命令規定に行政が課す懲罰の庇護を与えている。それが憲法違反ではないとしても、我が憲法は、行政罰に関連して、非常に重大な転換を導入していることは疑いなく明白である:狩猟法第46条以下の条文、および、それら(法律の)条文に対応するその施行規則の条文の前憲法的規制を(憲法に)適合させており、それが論争を提起している。狩猟に関して行政違反を定義する狩猟法第46条は我々が指摘している問題の格好の例である:“本法もしくは本法施行規則の規定で、本法第42条と第43条に包含されていない規定を犯す自由意思による作為または不作為は狩猟の行政違反を構成する”。(ここでは)憲法がその第25条1項で規定し、憲法裁判所が強く要求している、法律の留保原則と違反の犯罪類型該当性原則の明白な違背を思い描くことはできないが、施行規則(第48条)で違反が充分正確に類型化されていることに留意しなければならない:憲法の精神では、法律がその内容を規則に委託できるとは理解されないとしても;憲法裁判所は、遡及効をもって憲法以前の規範に法律の留保を要求する余地はないと宣言している(tempus regit actum、時は行為を支配する)、よって、結局、当該類型化の有効性は容認でき得る。
部分的には、同じようなことが、懲罰の限定性(taxatividad)の原則にも発生していると言える。つまり、狩猟法がこの点においていくらか明白にしていても、施行規則への参照がひっきりなしに行われている。罰金が主たる懲罰であり、付帯罰は獲物および使用道具の没収である。(武器の回収、これは時として、懲罰的性格を帯びる)。狩猟法が補充的性格の措置(管轄当局が発した許可、譲与もしくは宣言の取消し、撤回または剥奪(第48条1項))と呼ぶことに関連して、本当の懲罰か否かの、または、反対に警察の措置であるかどうかの境界を定める問題が提起される;それは、完全に異なる制度が有する問題にかかっている。
狩猟法が要求する唯一のものは、作為も不作為も“自由意思な”ことであり(第46条1項)、それは有責性の原則を帯びることを想定していないことにも係わらず、多数説と最近憲法裁判所が容認するところによれば、有責性の原則は現在疑いなく懲罰的行政法規全てにおいて支配的である;そのことは、他の多くの関心事の中で、錯誤および偶発事故の場合の免罪的効力を引出すことができることを想定している。
有責性の原則は、個人的責任の原則を伴っている(何人も他人が犯した違反の責任を負うことはない);そのことは、(責任者の)死亡の場合、懲罰命令が出たか、否かにかかわらず、責任の消滅を意味する。この消滅のケースには、2ケ月経過による違反の時効(狩猟法第47条1項bにおいて、罰する訴権の期限切れと不当にも呼ばれている)のケースを加えなければならない。また、違反が時効にかかり得るだけでなく、国庫への債務について租税共通法および予算共通法が決める期間に徴収されなかった分に課される懲罰も同じことになり得る。
憲法裁判所が憲法第25条に認められていると考える、“non bis in idem(同一物に対して、訴訟は2度ない)”の原則は、同じ行為が一方では裁判上、他方では狩猟法またはその他の法律に基づいて行政的に抑制されることを妨げるであろう。行為が犯罪(または軽犯罪)および行政違反の典型に合致する場合は、刑事司法機関が完全に優先する。しかしながら、いくらかのケースでは、二つの方途で抑制して行為無価値が完全に得られるところの犯罪と違反の“観念上の競合”の前に我々はいると考えられる;いずれにしても、行政機関は、裁判所の決定の事実認定により拘束されている。
訴訟手続・裁判所管轄法が懲罰を処理し、課すために用いられる。前者(手続き)に関連しては、1958年7月17日の行政訴訟手続法への参照が見られる。このことは、懲罰手続きに関するその第133条以下の条文を擁護するためと理解されなければならない。この点に関しては、刑事手続きに関連するが、懲罰的行政訴訟手続に多少異なって適用される憲法第24条の防護と無罪推定の権利に裏打ちされる、管理される者の保障の強化を考慮しなければならない。
農業省に付与された管轄権に関しては、自治州の利益のため(管轄権)移転がなされたことを考慮すれば、各自治州が規定することに現在留まっていなければならない。憲法裁判所は、自治州が管轄権を有する事案において新たな違反項目と制裁項目を創設できることを認めている。よって、狩猟の事案においては違反と制裁についての法制に自治州法制は介入できる。
狩猟許可の問題は論争の的である。なぜなら、1970年狩猟法の第3条1項の文言“狩猟権は、狩猟許可を持ち、本法が規定するその他の要件を満たす14歳以上の者全てに属する。”に注目すると、許可は狩猟する権利の設定行為であると考えられ得る;しかしながら、学説の大部分は、行政機関は申請者が前に持っていなかった権利はその者に付与しないという風に理解して、許可はその権利の確認行為と考えている。いずれの場合も、(狩猟者が)活動するところの周囲環境に関する狩猟者の知見の度合いを確かめる手段を整備することが日毎に必要になっている。(狩猟が)スポーツ活動にまで大衆化された現代では、古くて、時代の要求に少しも適合しない制度の永続は許されない。
1989年3月27日の法律第4号、“保護される自然空間法”は、狩猟および内陸性漁猟を、その天然資源の性格に基づき、その第4章で規制している。その第35条で、狩猟活動を展開するために必要な心構えと知識を証する試験を予見していて(そのことは、また漁猟にも適用できる)、この試験に通ることが狩猟許可取得の要件となるであろう。自治州に許可証発行が任されている。この法律が自治州の制裁(管轄)権を調整していることは強調すべきであり、このように行政警察活動の大きな心配事のひとつに答えが与えられている。
最後に当って、1970年の狩猟法およびその1971年施行規則、国および自治州の多くの法規、スペイン国が署名してきた国際条約、スペインのEC編入以降のECが制定した指針と勧告が、現行法を構成していることを思い出すことは適切である。500以上の(法律の)条項が、この問題が社会全体に対して有する重要性を証明している。
このように、(かっての)あの狩猟する権利およびそれを展開するためのあの自由さから、時代が我々にもたらして来た前進的諸制限の果実である現在の状態まで、長い時間が経過したことを我々は見てきた。これらの制限が少数者の特権に起源を有していた時代があったとすれば、今日、関心事は自然環境に対して好機を与えることである。そのためにはスポーツ狩猟の愛好家に少しの犠牲をお願いしなければならない;我々を承継する者の利益のためである。
翻訳 司法書士 古閑 次郎(横浜市)
スペイン狩猟法関連資料