作成者 司法書士 古閑 次郎
(神奈川県司法書士会所属)
スペインでの相続と遺言
第2章 遺言相続
(1) 遺言
遺言相続においては遺言者が相続人(これらは、遺産の全部または割合的一部を受領するために相続に召集された者である(血縁がない者も相続人となる))または受遺者(これらは、ある特定の財物または権利を受領するために相続に召集された者)を指名するが、遺言者の処分権限は無制限ではく、卑属、尊属または配偶者がある場合は、遺言者はそれらの者の遺留分を尊重しなければならない。遺言は全く一人でする仕事で、同一の遺言書で複数人が遺言することはできない。例えば、夫婦が共同遺言をすることはできず、各人が各々の遺言をしなければならない。また、遺言は個人的行為であるので、第三者にその作成を委託できない。
(2) 遺言できる者
原則として、法律で禁止されていない者全てが遺言することができる。14歳以上の未成年者も公証人の立会いで遺言書を作成することができる。しかし、自筆証書遺言はできない。
裁判上で無能力とされた者は、清明時にあると、遺言をなすことができる。この場合は、公証人は、その無能力者を前もって知っている2人の医者を指定し、これらの者がその能力に責任を持つと、それを公証する。
読み書きできない聾唖者は遺言することができない。このことは、今日では、他のいかなる手段でも自己の意思を伝達できないと言う意味で解されなければならない。一方、盲者と聾者は公証人の立会いで口頭遺言(我が国の公正証書遺言に相当)をすることができる。
強迫、偽網または詐欺で作成された遺言は無効である。強迫には身体的または心理的強迫がありうる。遺言をするように誘導する罠をかけるような言語または悪企みが用いられるとき、偽網または詐欺となる。反対に、相続人の氏名または属性の誤りは、相続人に指名された者が誰か他の方法で判別できるときは、遺言無効とはならない。
(3) 夫婦間の遺言
スペイン民法では、共同遺言は許されていない。つまり、2人が同一文書で遺言することはできない。しかし、夫婦が一緒に公証人の所へおもむき、各々遺言書を作成すること、及び、同様な遺言処分をなすことはできる。例えば、同じ相続人を指名し、財産を同じく分配することに同意することである。また、生存配偶者は、死亡者の遺言処分にとらわれず、新たな遺言をなすことができる。
(4) 遺言書作成の利点
口頭遺言書(公正証書遺言書)を作成する利点には次のものがある:
(a)遺産の処理が容易となり、結果として財産が相続人に早期に分与される。
(b)相続人間の紛争予防となる。つまり、遺言者は相続人の利害または必要性を慮って財産を分配できる、相続人のうちのある者が死亡した場合に対処できる、など、
(5) 遺言書の共通要件
遺言書の種類によりその成立要件は異なるが、各遺言に共通な要件としては:
(a)作成年月日の表示。
(b)作成場所の表示(自筆証書遺言では明示的には要求されていない)。
また、遺言が効力を持つには、遺言者の本人確認がなされなければならない。公証人関与の遺言(口頭遺言、秘密証書遺言)では、この確認は公証人の責任となる。遺言者の本人確認は次の公文書でなすことができる:
①DNI(国民身分証明書:Documento Nacional de
Identidad)
②NIF(納税者番号証明書:Número de Identificación Fiscal)
③パスポート
④運転免許証
遺言者が上記の公文書を持っていない場合は、遺言者を知っており、かつ、公証人の知合いの2人の証人により確認される。このような証人がいない場合でも遺言書作成は妨げられず、公証人はこの事情を記載することだけに制限される。
遺言書は文書で作成されなければならず、ディスク、カセット、ビデオに遺言者の意思を録音、録画することはできない。また、遺言書はスペイン語または外国語で作成することができる。
(6) 証人立会いの必要性
1991年までは、遺言書作成には証人の立会いが必要であった。現在は、遺言者または認証する公証人の申込みで随意である。しかし、次の場合は必要である:
①遺言者の本人確認に遺言者が適当な文書を持参しないで、公証人が個人的にその者を知らないとき。
②遺言者が署名できない、または、署名したくないとき。
③遺言者が文盲または遺言書を読めないとき。
④口頭遺言の場合、死亡の瀬戸際にあるとき。
⑤口頭遺言で、流行病の場合。
(7) 遺言の種類
(a)普通方式遺言
①自筆証書遺言
②秘密証書遺言
③口頭遺言(公正証書遺言)
(b)特別方式遺言
①軍人遺言
②在船者遺言
③在外者遺言
口頭遺言と秘密証書遺言は、死亡危急の場合および流行病の場合に作成されるなど特異な方式による場合を除いて、公証人立会いで作成される。
通常利用される遺言は公証人が立会う口頭遺言である。これは、それ自身で効力を有し、遺言者死亡後になんらの行為も必要とされない。その他の遺言では、死亡後に効力を持たせるにはいくらかの事後行為が必要となる。
(8) 自筆証書遺言
遺言者が自身で書く遺言が自筆証書遺言である。それが有効となるには、全文を自分で書いて、署名し、作成年月日を表示することである。この遺言作成には公証人は必要ではない。作成したら、遺言者はそれを自身で保管するか、信頼のおける第三者に依頼する。
その遺言書を保管している者は、遺言者の死亡を知るとすぐに裁判所に提出しなければならない。10日以内に提出しないと、遅延に起因する損害賠償責任を負うこととなる。また、相続人、受遺者、遺言執行人などの遺言に利害関係がある何人も提出することができる。
自筆証書遺言が効力を持つためにはそれが真正な遺言書であると承認する裁判手続きが必要となる。判事は、遺言書作成の本人性が正当であると評価すると、管轄公証人の公証簿に綴り込むことを決定する。これにより遺言書は公署証書となり、第三者に対して完全な効力を持つこととなる。遺言書の公証簿への綴り込みは死亡から5年以内になされなければならず、この期間が経過すると遺言は有効期限を過ぎ、効力の全てを喪失する。この場合は、相続は遺言者の意思ではなく、法律の規定により手続きされることとなる。
自筆証書遺言には次のように小さい利点と大きな不都合がある。
利点としては:
①作成の容易さ。
②遺言者の意思の秘匿。
③費用が不要。
不都合としては:
①保管者が保管していることを告知しない危険。
②文字が遺言者の手であるかの疑義、老齢者の場合に文字が変形することで生じる疑義などにより公証簿に綴り込まれない危険。
③公証人の法的支援なしに作成されるので法令に完全に適合しない危険。これは遺言書の全部または一部を無効にする。
④結果として、相続人に多大の費用と手続きをもたらす。
(9) 口頭遺言(=公正証書遺言)
遺言者がその最終意思を公証人の立会いで表明する遺言を口頭遺言と言う。このタイプの遺言が最も多く採用され、実務で一般化されており、保証も多くて最も推奨されている遺言である。公証人は作成の事実だけでなく遺言処分内容をも公証する。公証人の手数料は、財産の量にかかわらず、現在30ユーロ強となっている。
公証人手数料の費用がかかるが、その額はさほど加重ではなく(我が国の場合と比較すると、大幅に低廉であり。これは、この遺言方式が一般的となっている一因でもある。)、他種の遺言と比べて遺言者の死後の行為を必要としないで第三者対抗力を発揮する利点がある。これで相続人の費用を軽減ずることができ、手続きも簡素化される。また、公証人は起こりうる変則的事態を遺言者に警告しなければならないので、法律違背による異議申出の可能性を減少させることができる。
(a)作成手続き
①遺言者は遺言する意思を伝えるために公証人を訪れる。
②遺言者は、公証人および証人(ある場合)の立会いでその意思を、持参文書または口頭で、表明する。
③公証人は、遺言書となる文書を作成する。その際、次の事項を明らかにする;a)作成場所、年月日および時刻、b)遺言者の本人確認、c)その判断で遺言者に遺言能力があることの確認。
④文書が作成されると、公証人は遺言者にそれを読むことができることを告げ、遺言者は引続き大きな声でそれを読む。読み終えたら、遺言者は、それが自己の意思に合致している旨を表明する。
⑤遺言者は遺言書に署名する。署名できない旨を申出ると、証人の一人が遺言者の依頼でその代わりに署名する。
遺言者が死亡して、遺言書が所定の様式を遵守していないことで無効にされると、違反が公証人の故意または過失に起因する場合は、公証人が生じる損害賠償の責任を負う。
(b)遺言書の保管
遺言書が作成されると、それは公証人の公証簿に綴り込まれ、公証人はその作成事実を“終意行為登録総局”に通知し、遺言者にコピーを渡す。
遺言者が生存中は、遺言者のみコピーを請求でき、死亡すると、相続に利害関係を有する者は請求できる。コピーの請求者は、死亡証明書で遺言者の死亡を証明しなければならず、更に、当該遺言書が最終であること、よって、それが唯一有効であることを証明しなければならない。
(c)盲者および聾者の口頭遺言
盲者または聾者も口頭遺言することができる。14歳以上で、判断能力があれば足りる。しかし、2名の証人の立会いが必要である。
(d)死亡危急時または伝染病流行の場合の口頭遺言
これらの場合は、公証人の立会いなしに口頭遺言書を作成することができる。しかし、死亡危急時では証人が5人必要で、伝染病流行の場合は16歳以上の証人が3人必要となる。両方の場合、証人は遺言意思を文書で受取るように努めるが、これができない場合は、口頭での表明も有効であり、証人が表明するところによる。
遺言者が、伝染病流行の終了からまたは死亡危急から去ったときから2ヶ月生存すると、その遺言は効力を失う。遺言者が効力喪失前に死亡すると、それを行使するためには死亡から3ヶ月以内に、終意を公正証書で証して公証簿に綴り込むようにしてもらうために、裁判官の所に行く必要がある。
(10) 秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者がその終意を公証人に表明することなく、終意はその行為を認証する公証人に提出する封筒の中にあると宣言してなされる。公証人の立会いで作成されるが、私文書であり、公証人手数料がかかるにしては、遺言者死亡後に公証簿への綴り込み手続きが必要なので、実務上は、この遺言はほとんど利用されていない。
秘密証書遺言は文書でなされるが、手書き、タイプライターまたはパソコンで作成しても良い。手書きの場合は、最後のページに遺言者が署名し、機械書きの場合は、各ページに署名しなければならない。
封印後に公証人は作成証明書を封筒の上に発給する。遺言者は自身でその遺言書を保管することができ、また、公証人に寄託するか、第三者に保管委託することもできる。遺言書の保管者は、遺言者の死亡を知った場合は、10日の期間内に管轄の裁判官に提出しなければならない。
(11) 遺言の内容
遺言者は、遺留分を留保して、一人または複数の相続人を指名でき、相続人を指名せずに全遺産を遺贈することができ、財産の全部またはその一部のみを遺言処分でき、また、財産を内容としない遺言処分もすることができる。
よって、被相続人の葬儀葬式に関する処分、その鎮魂のためのミサまたは宗教儀式に係わる処分、子の後見人指定、子の認知(これは特別法に従う)のみを内容とする遺言も有効である。
(a)子の認知
遺言でなされた未成年者または無能力者の認知は、他の公署証書でなされる認知と異なって、その法定代理人の明示的同意とか検察庁および適法に知れた親の意見を聞いての裁判所の承認とかを要せず、有効となる。
また、民法741条は、“子の認知は、認知した遺言が撤回されても、その遺言が他の処分が入っていなくても、または、遺言のその他の処分が無効であっても、その法的効力を失わない。”と規定し、遺言認知を保護している。
(b)指名された相続人に関する疑義の解決方法
遺言者は、相続人をその氏名により指名しなければならず、同性同名の者が2名いる場合は、分別する事情を記載しなければならない。相続人を適切に指名する必要はあるが、民法は、遺言者の意思に疑義がある場合、または、別段の意思表示がない場合に、遺言者の意思の解釈基準を次のように規定している;
①相続人が持分の指定なしに指名される場合は、等分に相続する。
②遺言者が、“A、BおよびNの子等を相続人に指名する”とのように、ある相続人たちは個別に、他の相続人はまとめて指名する場合は、まとめて指名された者は、個別に指名されたものとみなされる。
③遺言者がその兄弟達を相続人に指名し、兄弟が全血と半血の場合は、遺産は無遺言の場合として分割される。
④遺言者がある者およびその子等を相続に召集する場合は、全員は、順次にではなく、同時に指名されたものとみなされる。
⑤遺言者が総称的に子または子等と呼ぶ場合は、養親の遺言に関しては養子も含まれる。
(c)遺言者の魂のため
遺言者は、その魂のため次のように遺言することができる。遺言者が、自己の魂のために、援助および信仰事業体に対して、不特定かつその用途を特定しないで、自己の財物の全部あるいは一部を遺言処分する場合は、遺言執行人はその財物を売却し、その額の半分を指定された援助および教会の所用と必要に向けられるように司教に提供し、そして、残りの半分を死亡者の住所地の福利施設に配分する、それがない場合は県の福利施設に、対応する県知事に提供して、配分する
(d)貧者のため
また、遺言者は貧者のために次のように遺言することができる。人あるいは市町村の指定がなく貧者一般のためになされた遺言処分は、明示的にその意思は別であると証明されない場合は、死亡時の遺言者の住所地の貧者に限定されているものとみなされる。貧者資格の決定と財物の分配は、遺言者が指定する者がそれをなし、その者がいないときは、遺言執行人がなし、それらがないときは、主任司祭、市長と市の裁判官がなし、疑義があると、それらの者の多数決で決する。
(12) 遺贈
ある者の死因承継者には次の2者がいる;
相続人:これらは、遺産の全部または割合的一部を受領するために相続に召集された者である(血縁がない者も相続人となる)。
受遺者:これらは、ある財物または特定の権利を受領するために相続に召集された者である。受領される財物または権利は遺贈と称される。例、ある寡婦はその2人の子を相続人に指名したが、(子の)Cáritasには20,000ユーロの遺贈をした。Cáritasは相続人と受遺者となる。
相続人を遺言で指名することができ、遺言がないと、法律が指名する(法定相続)。しかし、受遺者は遺言の中でしか指名できない。法定相続人は存在するが、法定受遺者は存在しない。
相続人は被相続人の権利と義務を承継するのに対して、受遺者は遺言者の負債については責任を負わない。
遺贈の設定には次の3名が介入する;遺言者、遺贈義務者(この者は遺贈目的物の引渡し義務を負い、相続人または受遺者がなることができる)および遺贈受益者(これには第三者または相続人の誰かがなることができる)。
遺贈処分をなすには、必然相続人(遺留分のある相続人)の遺留分を害しないと言う制限がある。
受遺者の地位は、その承認を要せず、遺言者の死亡時から自動的に取得されるが、遺贈を放棄することはできる。
(13) 相続人が遺言者より前に死亡する場合に対する措置
相続人に指名された者が、遺言者より先に死亡し、または、相続承認しないと言うように、相続人とならない場合が起こりうる。遺産に相続人が存在しない場合を回避するために、先に召集された者が欠けると、相続人の地位を取得する、他の者を召集することができる。例えば、“相続人にわが子Joséを指名する。Joséが欠けた場合は、その子等を指名する。”と言うように。この代位は代替相続と称される。
代替相続人の指名は遺言でなされなければならない(遺言がないと、代替相続人はいない)。遺言者は代替相続人を何人でも指名できる。通常は、各相続人に一人の代替相続人が指名されている。代替相続人が相続承認すると、無遺言相続と増加権は排除される。
(14) 代替相続人が指名されないで相続に召集された者のある者が相続人の地位を取得しないときの相続分の増加。
遺言者が代替相続人を指名しないときで、相続に召集された者のうちある者が遺言者より前に死亡する場合、または、相続承認できないか、したくない場合は、残りの者の相続分は拡張される。これは(相続分の)増加と呼ばれる。(相続分の)増加は、遺産全部について、または、その一部について共同して召集されるときに、発生する。共同召集の例としては、①遺産全部に子、Antonio, SebastianとJoséを召集する。②遺産の1/3に2人の孫、JoséとJuanを召集する。(相続分の)増加は被相続人の推定意思にその基礎を置くので、被相続人が廃除すると、生じない。
遺産の相続分が増える相続人は、相続承認しなかった、または、できなかった者が引継ぐべきであった権利・義務全部を承継する。
必然相続人間では、増加権は、遺産の自由処分可能部分が2人以上の必然相続人に残された場合、または、その1人と第三者に残された場合に生じる。放棄された遺産部分が遺留分である場合は、共同相続人が、増加権ではなく、その本来の権利により承継する。
召集された者の全員が遺産を引受けない場合は、無遺言相続の規則に従って分配される。
(15) 第1相続人の後に第2相続人を指名できるか?
代替相続と共に、民法は制限付きではあるが所謂信託遺贈(sustitución
fideicomisaria)を認めている。これは、遺言で第1相続人の後に相続人を指名することでなされる。よって、前者は一時的または暫時の相続人となる。
信託遺贈には3名の主人公がいる。信託遺贈を命じる委託者、最初に相続に招集される受託者、受託者を介して財物を受取るように指定された受益者。
2親等から外れない(例えば、子に対して遺言者の孫)、または、遺言者死亡時に生存している者のために、とか言うことは信託遺贈が有効になるための条件を構成する。
受託者は、遺言者が別段の定めをしていないと、適法な費用、債権および特別遺留分に対応する控除分を除いて、受益者に遺産を引き渡さなければならない。移転義務は遺産の財物に限られるので、果実と収益は受託者のものとなる。
信託遺贈は遺産の全部または一部を対象にすることができるが、裁判上の無能力である子または卑属のために厳格遺留分(遺産の1/3)対象にできることを除いて、遺留分に掛かることはできない。割増遺留分に向けられる(遺産の)1/3の上に信託遺贈がかかっていく場合は、卑属のためにのみなすことができる。
(16) 遺言は何回撤回できるか?
遺言は基本的に撤回可能な行為であり、撤回不能であるとの遺言者の表明は完全に無効である。撤回は、新たな遺言によりのみなすことができる。新遺言は無効にされる遺言と同一種類である必要はなく、公証人介入遺言は自筆証書遺言で無効にでき、その反対も然りである。
撤回は、前遺言を無効にすると表明する新遺言を作成することで、明示的になされるか、新遺言では前遺言に言及しないが、前遺言の内容と全く両立しない規定を設けることで、黙示的になされる。
撤回は、前遺言の規定全部に影響を与えるものでなく、その内のどれかに制限することができる。黙示的撤回は、どの規定が両立しないか決定するに当り、遺言者の意思を解釈しなければならない問題を生じさせる。
(17) 公証人介入遺言書がある場合の相続手続き
遺言は、個人的行為であり、遺言者、公証人、証人(いた場合)および遺言者が教えていたいと思う者のみが知っている。よって、人が死亡したときに、その相続人が最初に取る一歩は遺言の内容を知ることである。
公証人介入遺言では遺言者はコピーを受領し、それを秘密に保つこと、または、教示することはその者の義務である。遺言者の生存中は、遺言者以外は何人もコピーの取得はできない。一方、相続人となり得る者にとってコピーの取得は、かれらが知っている遺言が最終のものであるかどうか保証がないので、重要な価値がある。
そのために、人が死亡したとき利害関係人が遺言の存在を知ることができるように、終意行為の一般登録所と称される、遺言情報提供を目的とする公共登録所が設置されている。この登録簿に公証人の立会いで作成された遺言全部が登録されている。登録のために、公証人はその所属する公証人協会に遺言の対応部分を送り、協会がその情報を登録所に送っている。
利害関係人が遺言にアクセスするには次の2つの行為をなす必要がある。①死亡証明書を提出して、遺言の存在・不存在および作成に係る公証人の住所・氏名と作成日を証する証明書の発行を終意行為の一般登録所に申請する。②作成に係る公証人の所に行き、認証コピーの発行を申請する。このコピーは、当該申請人の氏名が遺言中に記載されている場合、発行される。
遺言で利益を得る者は公証人からコピーを取得し、対応する手続きに進む。この時から、遺言執行人が指定されている場合は、相続手続きは執行人に属し、執行人がいない場合は、相続人自身が直接手続きする。
遺言条項を見て、それら条項を実行し、分割を実施する手続きを行う。分割実施のために相続人は弁護士または遺言に係わった公証人の助言を求めることができる。相続人は“分割帳簿”の完成のため被相続人の全ての財物、権利及び義務のリストを作成する必要がある。
分割が実行されると、各相続人に付与された財物の所有権が引き渡され、対応する税務署に相続・贈与税の申告書を提出し、不動産がある場合は、住宅土地価格増加税の申告書を役所に提出する。
遺言から派生した全ての手続きを終了させるためになすべき最後の一歩は、所有権登記簿への新たな名義人の名での不動産の登記であり、金融機関での預金や預けてあった有価証券の取得または自己の口座への移転である。これらの手続きには、税金の申告・清算を実行したことを証明しなければならない。