スペインでの相続と遺言

第5章 相続の課税関係

 相続・贈与税については1987年12月18日法律第29号と1991年11月8日政令第1629号で規定され、更に、自治州の規則に規定されている。

(1) 相続・贈与税の課税事実

 相続・贈与税を発生させる事実としては、

①相続、遺贈または他の相続資格での財物・権利の取得。

②生前贈与または他の無償取引での財物・権利の取得。

③生命保険契約者と受益者が異なる場合、受益者による金員の受領。

(2) 納税義務者は誰か?

 納税義務者は次のようになる:

①相続と遺贈では、承継人。

②生前贈与と無償移転では、受贈者または受益者。

③生命保険では、受益者。

④損害保険では、受益者。

 相続または遺贈の単純放棄の場合で、放棄者が承継人を指定しない場合は、放棄者には課税されなく、放棄部分の受益者が課税される。

 放棄が明示的にある一定の者のためになされる場合は、放棄者は死因承継により課税され、受益者は生前贈与により課税される。

 相続・贈与税は自然人のみに課され、取得者が法人の場合は、法人税が課される。

(3) 公租公課に責任を負う者

 納税義務者は相続人または贈与での受益者であるが、他の者が連帯してまたは補充的に納税義務を負う場合がある:

(a)連帯納税義務者:被承継人または納税違反に加担した者。

(b)補充的納税義務者:

①預金、保証金または当座口座の“死因”移転において、仲介会社、金融機関および金銭および寄託した有価証券を引渡した、または、設定された保証を返還したその他の機関または人。

②相続人または契約で指定された受益者となる者への金員の引渡しにおいて、引渡しをなす保険会社。

③遺産の一部を形成する有価証券を移転する仲介者。

(4) 相続人または受遺者の住所による課税関係

 納税義務者は、その住所により、人的納税義務者(=無制限納税義務者)と物的納税義務者(=制限納税義務者)に別れる:

(a)人的納税義務者とは、スペインに常居所を有している者で、取得する財物がスペイン国外にあっても、その全部について課税される者である。

(b)物的納税義務者とは、その住所がスペイン国内になく、スペイン国内にある財物、および、スペイン保険会社またはスペインで外国保険会社と締結したときの生命保険契約から派生する金員の受領のようなスペイン国内で行使または履行される権利を取得する者である。当該義務者は、①スペイン国内にある財物と国内で行使されるべき権利にのみ課税され、②スペインでの代理人を指定しなければならず、③納税額計算のため、国内にある財物に補正係数(相続税納税者の親族グループと納税者の前財産に応じて設定される補正係数で、相続税の納税額を得るために使用される係数)が適用され、④他の税金と異なり、国際2重課税控除は適用されない。

(5) 被相続人住所地の自治州課税

 相続・贈与税は自治州に割当てられた税であり、各自治州が管轄している。当該税を徴収する自治州は被相続人の常居所地の州である。常居所地は被相続人が年の内最も長く居住した地となる。一時的不在は居住に算入され、反対の証明がない場合は、自然人は、その常住する家が存する自治州内に居住していると推定される。

 国家法が当該税を設定し、規定しているが、各自治州は次の課税条件を決定することができる:

①課税標準の軽減額

②税率

③相続人の前財産と親等に応じた補正係数の値

④税の控除額と値下げ額

⑤管理、納税、徴収と審査

 自治州が上記条件を決定したら、それらは国家法の規定に優先する。

 País Vasco、Navarra、Cantabria、Madrid、La Rioja、Baleares、Castilla y LeonおよびValencia自治州では、21歳未満の卑属と養子には相続税は実行上課されていない。また、州により異なるが、配偶者、卑属、尊属と養子(21歳以上)には減税処置が採られている。

(6) 課税基礎

 各相続人の課税基礎は次の算式で計算される:

課税基礎=相続財産の正味価値×自己の相続分+遺贈分(付与財物)

(自己の相続分は法律または遺言処分により決定される。)

正味の総財産は次の計算式で算出される:

相続財産の正味価値=①相続財産総体の価値+②家具の価値-③控除可能負債-④控除可能費用+⑤加算可能財物の価値-⑥遺贈および一定の者へ付与された財物の価値-⑦全相続人に共通な免除額

①相続財産総体の価値

 被相続人が名義人である財物と権利で経済的価値があるものが相続人へ付与される財産の総体を形成するので、家具(これらは一緒くたにして計算される)を除いて、詳細にリストアップしなければならない。

 被相続人が取得財産共同制で婚姻していた場合は、婚姻中に取得した共同財産の50%は生存配偶者に属して遺産とならないので、50%のみが遺産となる。

 被相続人が遺言で具体的財物を一定の承継人に指定していた場合は、それらの財物の価値は、その他の承継人の割り前決定には、遺産に含まれない。

 遺産総体を構成する財物が評価の対象となる。そのため、利害関係人はその納税申告に各財物に付与する実質価値を明記しなければならなく、価値が課税行政機関の査定価値より大きいと、その価値が優先する。用益権、虚有権、使用権および居住権の評価については法律が規定している。

 このように計算された価値の合計が相続財産相対の価値を構成する。

②家具

 被相続人特有の動産、衣服および用具の総体は家具を構成する。家具は相続財産の一部を形成するが、一般に遺産の総額の3%で評価される。

③控除可能な負債

 遺産の額は、各承継人にその納税額を割当てるためには、正味価額であることを要する。よって、先に決定された相続財産の価値から被相続人が残した負債を控除することができる。その存在が適法に証明される負債は、相続人、配偶者、尊属、卑属または兄弟姉妹への負債である場合(それらの者が相続放棄しても)を除いて、控除することができる。徴税機関は、債権者の出頭を得て、相続人に負債を公署証書で追認するように請求することができる。

④控除可能な費用

 法律で列挙されている次の一連の費用を控除することができる:

a)相続人全員の共同の利益での訴訟費用。

b)正当な範囲での最後の疾病、葬儀および埋葬費用。葬儀・埋葬費用は、地域の慣習に従って、遺産に正当に比例するものでなければならない。

 上記以外の費用は、遺産管理に派生するものでも、控除できない。

⑤加算可能な財物

 法律は、被相続人に死亡時に近接する日時まで属していた一定の財物は遺産の一部を構成すると、規定している。加算可能財物の取得者が(遺言または法律による)相続人または受遺者の地位を持たない第三者の場合は、この者は受遺者とみなされる。

 この加算は自動的になされるのではなく、利害関係人が遺産に含めることを拒否する場合は、課税基礎から除かれる。

 このように計算された相続財産の正味価値は相続人の間に分配される。しかし、被相続人が遺言していて、遺贈または一定の承継人への付与財物がある場合は、これらの財物は受益者に別個に付与されるので、相続財産の正味価値から控除される。

事後、具体的財物が分配されるときに、持分以上を受領する場合は、その超過部分は財産移転・文書化法律行為税で課税される。

(7) 課税標準

 各承継人の課税標準は次の算式で計算される:

課税標準=課税基礎-各種減額

 死因取得事由での主たる減額要素(これは贈与には適用されない)には次のものがある:

①親等による減額

 承継人は、その親等と年齢により以下の減額処置を享受する:

a)第1グループ(21歳未満の卑属と養子)

 15,956.87ユーロに加えて、21より少ない承継人の年齢1歳毎に3,990.72ユーロ増し。但し、47,858.59ユーロを上限とする。

b)第2グループ(21歳以上の卑属と養子、配偶者、尊属、養親)

 15,956.87ユーロ

c)第三グループ(2親等と3親等の傍系親族、姻族の尊属と卑属)

 7,993.46ユーロ

d)第4グループ(4親等の傍系、5親等以上、第三者)

 減額無し。

②障害者減額

 障害の程度が33%~65%の者は47,858.59ユーロの減額、65%以上の者は150,253.03ユーロの減額が適用される。これは①に重畳される。

③再転相続減額

 ある財物が10年以内に2回以上の死因移転の目的となった場合は、2番目以降の移転では先行する移転で納税された額が控除される。この減額は被相続人の卑属にのみ適用される。

④生命保険での減額

 生命保険契約の受益者(死亡した契約者の配偶者、尊属、卑属、養親または養子のとき)が受取った金員には、9,195.49ユーロを限度にして、100%の減額が適用される。減額は、受益者となる保険契約が何個あっても、納税義務者当り一回である。

⑤個人企業または専門的事業の相続に対する減額

 死亡者の配偶者、卑属または養子は、遺産を形成する個人企業または専門的事業価値の95%の減額を享受する。卑属または養子がいない場合は、尊属、養親および3親等までの傍系親族による相続に適用される。

 農業には個人企業相続による減額とは異なる減額制度があり、納税義務者の選択により、いずれかが適用される。

 個人企業、専門的事業および居住建物の減額処置を受けた場合、被相続人の死亡時から10年間は、当該期間内に取得者が死亡する場合を除いて、維持しなければならない。この要件を履行しない場合は、減額適用により減った税金とその遅延利息を納税しなければならない。

⑥被相続人の居住建物相続に対する減額

 被相続人の居住建物については、122,606.47ユーロを限度に、各納税義務者に95%の減額を、配偶者、尊属もしくは卑属、または、被相続人と死亡以前2年間同居していた65歳以上の傍系親族は、享受する。

⑦自治州により独自に認められた減額

 自治州法の規定に従う減額が適用される。

(8) 税率

 納税額は次の算式で計算される:

納税額=(課税基礎-各種減額)×税率×親等係数

税率は、各州で承認されたものが使用されるが、その承認税率がない場合は、次の表が適用される:

課税標準(ユーロ)

税率(%)

0~7,993.46

7.65

7,993.46~15,980.91

8.50

15,980.91~23,968.36

9.35

23,968.36~31,955.81

10.20

途中省略

 

398,777.54~797,555.08

29.75

797,555.08以上

34.00

 税率は所得税と同様に累進税率となっている。

 課税標準が35,000ユーロの場合は、親等係数を乗ずる前の税額は3,188.36ユーロとなる。

(9) 親等係数と納税額

 (8)で算出された税額が納税額となる訳ではなく、納税額算出には自治州が規定した相続人の前財産(patrimonio preexistente)の額と親等をパラメータとする係数が乗じられる。自治州がこの係数を規定していない場合は、次の表の係数が適用される。相続人の前財産の評価は、資産税の規定を適用して計算される。

相続人の前財産の額

相続人の親等グループ

Ⅰ、Ⅱ

402,678.11ユーロ

1.0000

1.5882

2.0000

402,678.11~2,007,380.43ユーロ

1.0500

1.6676

2.1000

2,007,380.43~4,020,770.98ユーロ

1.1000

1.7471

2.2000

4,020,770.98ユーロ以上

1.2000

1.9059

2.4000

 例:(8)の例で税額が3,188.36ユーロの場合で、相続人の前財産額が500,000ユーロのとき、①相続人が21歳以上の子(1親等)の場合、係数は1.0500となり、②甥(3親等)の場合、1.6676、③従兄弟(4親等)の場合は、2.1000となる。

よって、納税額は:

①の子は、3,188.36×1.0500=3,347.78ユーロ

②の甥は、3,188.36×1.6676=5,316.91ユーロ

④の従兄弟は、3,188.36×2.1000=6,695.56ユーロ

(10) 納税義務の発生時と時効

 死因取得および生命保険では、税金は被相続人または被保険者の死亡の日、または、失踪者の死亡宣告が確定したときに発生する。発生日の決定は次のために重要となる:

①納税に適用される規則を決定する日となる。

②税申告提出期限(当該日より6ヶ月)の計算。

③財物の評価は当該日に関連する。

 当該税の消滅時効期間は、申告提出期限終了日から数えて4年である。課税当局は時効にかかった税を請求することはできない。

(11) 相続人・受遺者が課税当局に提出すべき書類

 相続・贈与税の書類と申告書は自治州の管轄所にその州の規則に従って提出される。州自身の規則がない場合は国の規則に依拠する。

 国の規則に従うと、申告書提出には課税事実を証する書類(遺言書、遺産分配公正証書、ない場合は、代替申述書)と財物・権利・負担のリストを添付しなければならない。

 納税義務者は次の選択をすることができる:

①必要書類を課税当局に提出して、納税額を計算してもらい、通知があったら入金する(賦課課税方式)

②納税額を自分で決定して、入金する(申告納税方式)

 いくつかの自治州では申告納税方式が義務となっている。

 その他の提出書類としては、

①被相続人死亡証明書、終意行為一般登録証明書。

②存すれば、遺言処分のコピー、なければ、遺産分配の相続人の宣誓書。

③遺産に加算すべき生命保険契約書。

④負担、負債および費用の証明書。

(12) 申告期限、納税期限

 申告期限は被相続人死亡から数えて6ヶ月であるが、延長を申請することができる。延長には遅延利息支払い義務を伴う。

 申告納税では申告書提出のときに納税する。賦課課税では期限が設定され、通知書で告知される。

 遺産中に現金がない場合は、担保なしで1年までの延長が認められる。担保が提供されると、5年間の延長が認められる。個人企業および居住建物の移転では10年までの延長できる。

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作成者 司法書士 古閑 次郎
(神奈川県司法書士会所属)