通訳案内士(元司法書士) 古閑次郎

 生涯学習としてスペイン法に取り組んでいますが、この度、スペイン民泊法(カタルーニャ州の場合)の概要をまとめてみました。

      スペイン民泊法の概要(カタルーニャ州の場合)

(1)    民泊の整備・規制は州法で。
 スペイン憲法第1481項は、“自治州は、次の事項を管掌することができる”として、その第18号で“その領域内での観光事業の推進・整備”を挙げている。これを受けて、多くの自治州は、近年、独自の観光・民泊関連法を整備している。
 しかしながら、憲法第149条1項は“国は、次の事項につき排他的管轄を有する”として、第3号“国際関係”、第10号“税関および関税制度、貿易”、第13号“経済活動の一般計画の基盤(bases)および整備”を挙げている。これらの管轄により、国はスペイン観光分野の経済的整備に係わる法規則を承認でき、よって、観光事業の整備・統制に間接的に介入できる。ここで、産業・通商・観光事業省が、観光問題での政府の政治的提案・実施を所掌する国の機関である。
 本稿では、現在、独立問題などで世界的に話題となって、ガウディのサグラダ・ファミリアなど多くの観光資源を有し、国内外から多くの観光客が押し寄せているカタルーニャ州を取り上げて民泊法の概要を説明する。 

(2)
 カタルーニャ州の観光の概要

① 人口(2015)7,396,991
② 面積:32,091㎢(九州より若干小さい)
③ 観光事業のPIBに占める比率(2013)12
④ 宿泊数累計(2015)59,382,100/
⑤ 外国観光客消費(2015)158.13億€
⑥ ホテル収容定員:304,026
⑦ 登録観光使用住宅(いわゆる民泊住宅)数(2017)65,000(約37万ベッド)(その他、違法民泊物件が23万戸あると言われている)

 
(3) カタルーニャ州の主な民泊関連法
① 2002621日州法13号(カタルーニャ観光事業法:Ley de turismo de Cataluña
  20071228日州法18号(住宅権利法:Ley del derecho a la vivienda
  2010119日政令164号(観光使用住宅の調整政令:Decreto de regulación de las viviendas de uso turístico
  20111229日州法9号(経済活動促進法:Ley de promoción de la actividad económica
⑤ 20121120日政令159号(観光宿泊施設および観光使用住宅の政令:Decreto de establecimientos de alojamiento turístico y de viviendas de uso turístico
 
 2002年の観光事業法は、制定時には、観光使用住宅(Vivienda de uso turístico以下、VUTと言う)を定義していなかったが、2007年の住宅権利法の第3l号で初めてVUTが次のように定義された。
l) VUT: その所有者が、管轄行政機関の承認を得て、一時期の滞在のために即座の使用可能状態で、賃貸借の制度または経済的対価を含むなんらかの方式で、第三者にその使用を引き渡す住宅である。譲受人はその住宅を自己の主たる、または、従たる住居に変換することはできない。
 続いて、2007年の住宅権利法の第19条(住宅の観光使用)を受けて、VUT規制・整備を具体化する2010119日政令164(観光使用住宅の調整政令)が制定された。その政令では、住宅をVUTに供するには市町村のライセンスが要求されていた(第6条)。その後、2011年の州法9号(経済活動促進法)で2002年の観光事業法が修正され、観光事業法に第50条の2VUTの概念)と第50条の3(契約の自由)が追加されて、“VUTとは、その所有者が、直接または間接に、繰り返し、経済的対価と交換に、一時期の滞在のために、即座の使用可能状態で、また、規則で規定される特性をもって、第三者に引き渡されるその住宅である。”と定義され、“VUTは管轄市町村への営業開始の事前通知(comunicación previa)を要する。”と規定して、2008年頃の不動産バブル崩壊による経済活動復活のために、観光宿泊セクターの自由化が図られた。また、市町村にVUTの定期検査を委任している。
 これを受けて、現行の2012年の政令159(観光宿泊施設および観光使用住宅の政令)2010年の政令164号を廃止して、次の4.に示すようにVUTを規制・整備している。
 なお、住宅の一時期の賃貸は19941124日法29号(借家法: Ley de arrendamientos urbanos)で規制される賃貸であるが、201364日法4号(住宅賃貸市場の柔軟化・育成措置法:Ley de medidas de flexibilización y fomento del mercado del alquiler de viviendas)で追加された第5(e)項は、次の要件を満たすVUTの賃貸をその適用から排除している。
① 即時利用の状態での家具付き住宅で、
② 観光提供チャンネルで商業化・宣伝され(つまり、インターネットで広告などされ)、
③ 営利目的で賃貸され、
④ 対応するセクター規範(normativa sectorial)で構成される特定の制度に服している。
 
(4) 20121120日政令159号(観光宿泊施設および観光使用住宅の政令)の概要
 72条で構成され、第1章(観光用宿泊施設)と第2章(観光使用住宅(VUT))に分かれている。第1章(観光用宿泊施設)は、ホテル、観光用アパート、キャンピング施設および農村観光事業施設(establecimientos de turismo rural)の業務的宿泊施設を規制しており、第2章(観光使用住宅)が第66条から第72条でいわゆる民泊を規制している。
 以下、民泊部分について条文を示す
 
2章 観光使用住宅
66条 定義および適用範囲
1. 観光使用住宅(VUT)とは、その所有者が、直接または間接に、繰り返し、経済的対価と交換に、一時的滞在のために、即座の使用可能状態で、また、本条例で規定される特性をもって、第三者に引き渡されるその住宅である。
2. VUTはその全体で引き渡され、部屋毎(por estancias)での引渡しは許されない。(著者注:つまり、VUT利用者と家主とは同時に居住できない。この点、我が国の民泊法(住宅宿泊事業法)は、家主居住を認めている)。
3. この政令の効果のため、31日以下の期間での住宅の全占用は、一時的滞在とみなされる。(著者注:つまり、VUTとするには、1連続宿泊期間は31日以下で、年に2回以上VUTに供する必要がある。)
 
67条 VUTの要件とサービス
1. VUTは居住適確証明書(cédula de habitabilidad)を備えなければならず、また、住宅に要求される技術的条件および品質を常時満足しなければならない。VUTは、同証明書に表示される収容定員を超える定員を収容できない。
2. VUTは、充分に家具を備え付け、収容定員全体に関して良好な宿泊サービス提供のために、完全な衛生状態で持って、即座の使用に必要な器具・用具を備えなければならない。
3. VUTの所有者または管理委任された者は、利用者および近隣に、VUT事業に関する協議(consultas)およびトラブルに即座に対応・解決するために、電話番号を知らせなければならない。
4.  VUTの所有者または管理委任された者は、住宅の支援・メンテナンスサービスを保障しなければならない。 
68条 法的制度(régimen jurídico)
1. VUTは、管轄市町村に所有者が署名した、また、場合によって、当該住宅の運営を事前に所有者が委任した運営人または運営会社が署名した対応する事業開始事前通知(previa comunicación de inicio de actividad)を要する、
2. 事前通知文書は次のものを記載する:
a) 住宅およびその最大適法定員のデータ。
b) 所有者のデータ。
c) VUT事業に関する連絡に即座に対応するための電話番号。
d) 住宅の支援・メンテナンス会社の識別情報。
e) 住宅が居住適確証明書を備えていることの責任ある陳述。
3. 住宅の運営を委託している場合は、事前通知文書は、前記の外に、次のことを記載する:
a) 運営人(persona gestora)のデータ。
b) 運営人が、VUT運営について所有者の地位を正規に占めることの責任ある陳述。
4. 第2項および3項に係わるデータの変更または修正は、第1項に規定される手続きに従って、通知されなければならない。
5. VUTの状態は、管轄当局の検査行為を妨害するために住居だと主張することを疎外する(著者注:つまり、住居だから検査を受けないと主張できない)。
6. 住宅を観光目的に供することは、次の場合できない。存在場所の区域使用計画(ordenación de usos del sector)により禁止されている場合、または、区分所有建物において正規に登記された管理規約(estatuto de la comunidad)で禁止されている場合。
(著者注:地区使用計画の一例として、バルセロナ市は、ホテル等の観光宿泊施設やVUTの過度な集中を排除し、調和のとれた観光宿泊施設の分布を確保するために、それらの新設等を規制する、観光宿泊特別都市計画:Plan Especial Urbanístico de Alojamiento Turístico (PEUAT)2017127日の市議会で承認して、同年36日に施行している。本計画では、VUTはゼロ成長となっている。)
7.  2項および3項に従って事前通知に証すべきデータの重要な不正確、虚偽または脱漏、および、この事前通知の不提出は、当該行為が明らかになったときから営業不能をもたらす。ただし、201083日の州法26号の第36条の規定に従ってカタルーニャ自治州の法制度および公行政手続きに由来する責任を害しない。
8. VUTは、カタルーニャの観光業登録簿(Registro de Turismo)に登録される。このために、市町村は、カタルーニャ自治政府の行政機関に、カタルーニャ公開行政組合が運営するカタルーニャ公行政機関extranet (プラットフォームEACAT)を介して、自己の行政区域に存するVUTの開業届け(altas)、休業届け(bajas)およびデータの修正を送信する。いずれにしても、送信義務のあるデータは、第2項のa)号、b)号およびc)号に係わるものである。
9. 全てのVUTは、カタルーニャ政府の行政機関の消費を管轄する機関の苦情・請願・告発の公認用紙を備えなければならない。これらの用紙は、VUTの内部で利用者が入手できる適当な場所に置かれなければならない。
10. VUTは、次のものを、利用者に見えて、容易にアクセスできる場所に掲示しなければならない:
a) 苦情・請願・告発の公認用紙を備えていることの通知標識。
b) 本条第2項に規定される電話番号。
c) 営業開始事前通知の市町村への提出登録番号。
11. VUTの利用者が、共同生活の基本的規則に反する行為をする場合、または、そのために規定された市町村条例を守らない場合は、VUTの所有者または運営者は、24時間の期限を設けて退去するように要求しなければならない。

 
69条 VUTの格付け
 VUTは、観光格付けの任意システム(sistemas voluntarios de categorización turística)に従って、格付けすることができる。(著者注:格付けするのは、各VUTがカタルーニャ州が作成したマニュアルに従って任意にすることができる。このシステムは、簡単に言うと、VUT所有者・運営者が当該マニュアルに従って自己VUTの格付けを行い、それをカタルーニャ政府の観光事業総局は実地検査して、それを追認することでVUTの格付けをするものである。格付けは、15個の鍵マークで表わされる(ホテルは、15個の星マーク)。

70条 利用者の登録
 所有者または委託された運営者は、VUTに宿泊する者の滞在に関する情報を、対価を得て人に宿泊を提供する全ての者に適用される治安規則に従って、警察総局に発出しなければならない。

 
71条 行政機関の間の協力
 管轄行政機関は、VUT営業の検査・監督業務を最適化するため、互いに協力しなければならない。このため、市町村はVUT営業に関連する検査業務において、カタルーニャ政府の援助を要請できる。 

 
72条 罰則
1. VUTの所有者および(所有者と異なる)運営者は、連帯して、その営業に適用される観光分野、住宅、消費および市町村の規則に規定される義務の違反・不履行の責任を負う。
2. 前項に従って、VUT営業に係わる公益の後援行政機関は、次のようなその管轄に従って、懲罰問題および規律問題において活動する:
a) 営業の規律に関して:(カタルーニャ政府の)観光問題管轄部局、その管轄範囲内で市町村、および、住宅問題管轄部局。
b) 消費者保護問題での違反とされる行為および営業に関して:消費問題管轄部局およびその管轄範囲内で市町村。
3. 本条例の不履行に対して管轄行政機関が科すことがでる懲罰は、カタルーニャ政府行政機関の適用可能懲罰手続きに、場合によっては、市町村自身が設定している懲罰手続きに留意しなければならない。
 具体的罰則については、2002621日州法13号(カタルーニャ観光事業法)がその第94条で次のように規定している。

(カタルーニャ観光事業法)第94条 懲罰の段階
1. 本法の違反は、次の処分を適用して罰せられる:
a) 軽い違反は、警告または3,000ユーロまでの罰金により。
b) 重大な違反は、3,001から60,000ユーロの罰金により、または、違反の性質および重大性によって最大1年間の営業の停止または施設の一時的閉鎖により。
c) 非常に重大な違反は、60,001から600,000ユーロの罰金により、または、違反の性質および重大性によって最大2年間の営業の停止または施設の一時的閉鎖、あるいは、施設の確定的閉鎖により。
2. 懲罰適用においては、科された懲罰が、違反者にとって違反した規則の履行より恩恵的な結果とならないよう確保しなければならない。
 同法違反について、第89条は、VUT違法営業を非常に重大な違反としている。

 
(5) (余談)区分所有建物管理組合のVUT対応策の考察
 近年、スペインでは観光業の発展により区分所有建物のVUT転用が増加して、建物内・近隣住民との紛争が増加しているようであるが、管理組合が取りうる対抗策について簡単に考察する。
 1960721日法49号(区分所有法:Ley de Propiedad Horizontal)第72項は、“区分所有建物の所有者および占有者は、規約で禁止されている(中略)活動の展開をしてはならない。”と規定しており、また、カタルーニャ州では、憲法第14918号(カタルーニャ州など6州では、かっての旧王国時代の民事法を保持・修正・施行する権能が認められる)の規定に従って、この区分所有法に代って2006510日州法第5号カタルーニャ州民法第5(200671日から有効)が適用されるが、その第553条の40(専有部分および共用部分使用の禁止・制限)で、“所有者および占有者は、正常な共同生活に反する、または、建物を害するまたは危険に置く活動、あるいは、規約、都市計画規則または法律が明示的に排除または禁止する活動をすることができない。”と規定している。
 これらの規定を受けて、カタルーニャ州にある区分所有建物管理組合がVUT営業禁止に向けた対抗策としては、次の、2つが考えられる。

 
(1) 管理規約に、VUT営業禁止条項を追加する。
 前述の20121120日政令159号は、その第686項で“区分所有建物において正規に登記された管理規約で禁止されている場合はVUT営業ができない。”としている。原始規約でVUT営業禁止条項が記載されていると、問題ではないが、VUT営業は最近問題化されているので、多くの区分所有建物はこの条項がないと考えられる。よって、規約を修正してこの禁止条項を追加することとなるが、ここで問題となるのは、現行の区分所有法の第176項が管理規約修正には組合員および議決権全部の賛成を要求していることから、VUT営業をしている、または、考えている所有者の同意を得るのは不可能である。
 本件については、最近の新聞情報によると、近年の多くの区分所有建物管理組合のVUT規制要請を受けて、産業・通商・観光省は、組合員とその議決権の3/5の賛成で規約変更ができるように、区分所有法を改正することを検討している。
 しかし、カタルーニャ州で有効な同州民法の第553条の262a号は、規約修正には組合員および議決権の4/5の賛成を要求しているので、規約を修正することは不可能ではない。しかし、規約修正の効果が既に営業している、または、営業のために入手した第三者に遡及して対抗できるかについては争いがある。
 有力な学説は、区分所有建物内の正常な共同生活を保障するために、その組合員の所有権の上に禁止・制限を設けることは理にかなっているとするが、カタルーニャ高等裁判所は、規約修正には遡及効は認められないとしている。
 この点、我が国では、住宅宿泊事業施行規則第4313号で、民泊事業届出事項に“規約で禁止されていない旨、または、組合が禁止する意思がない旨”を記載することになっているので、管理規約に民泊事業禁止の規定を設けているか、総会または理事会で事業禁止の決議をしていると、届出は受理されないこととなる。

 
(2) 営業停止訴訟の提起
 管理規約の修正が困難な場合に取り得る対策としては、カタルーニャ州民法第553条の40に規定される営業停止訴訟である。同条1項は、“所有者および占有者は、正常な共同生活に反する、(中略)、活動をすることができない。”と規定しているので、管理組合はその事実を認識すると、先ず、当事者に共同生活を害していることを証明してその営業停止を求める。それにも係わらず営業継続する場合は、組合の臨時総会を開催して、そこで投票した組合員とその議決権の過半数の賛成(第553条の252f号)で裁判所に営業停止を求めることができる。
 しかし、VUTそのものは不法ではなく、規約で禁止されていなく、また、行政上も認可されているので、当該訴訟の効果は少ないと考えられるが、VUT営業が正常な共同生活に著しい混乱をもたらしている場合は、営業停止が認められる可能性はある(2017612日カタルーニャ高裁判決)。

 

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