スペインの婚姻、夫婦財産契約、別居と離婚
司法書士 古閑次郎
神奈川県司法書士会
夫婦財産契約
(夫婦財産)契約がないか、契約が効力を持たないときは、一般的に、ある特定の地域の地方民法または特別法が他のことを規定していない場合は、その制度は後述の取得財産共同体である。
夫婦財産契約は、婚姻の現在および将来財物が従うべき制度を定めるために、婚姻の前後で夫婦間で締結される約束または契約と定義することができる。この契約では、夫婦はその婚姻の財産制度を規定、修正または取り替えることができ、または、そのために他のいかなる処分も設定、修正または取り替えることができる。夫婦財産契約が効力を持つために、法律は公正証書で定めるよう厳格な様式を求めている。
夫婦財産契約締結能力については、民法典はその第1,329条と1,330条で、法律に従がって婚姻できる親権開放されていない未成年者は、夫婦財産契約を締結できる。但し、後述する別産制または収益分配制を取決めることに制限される場合を除き、その父母または後見人の協力と同意を要すると規定しており、また、裁判上の無能力者は、その法定代理人の援助を得てのみ(場合によっては、親族会議の承認を得て)夫婦財産契約を締結することができると規定している。
1.取得財産共同体
民法典に従うと、取得財産共同体は、夫婦のいずれかが(財物の帰属)不分明に取得した利益または収益は、夫婦にとって共同財産となり、共同体解散のとき半分ずつ分配されるような(財産の)共同体と定義できる。取得財産共同体は、婚姻締結の時に、または、その後、夫婦財産契約の中で取決めた時に開始する。
取得財産共同体では、夫婦の財物はほとんど完全な共有であるが、ある特定の財物は夫婦の各人の固有財物としている。それらは次の物である;
@共同体開始時にその者に属していた財物と権利。
Aその後無償名義で取得した財物と権利。
B特有財産の負担で、または、代替して取得した財物と権利。
C夫婦の一方のみに属していた買戻権により取得された財物と権利。
D一身専属の財産的財物と権利および生前は移転できない財物と権利。
E夫婦の一方の身体またはその特有財産に引起された損害の賠償。
F特別高価でない衣服および個人的に利用する物。
G職業または業務の遂行に必要な道具。但し、これらが共有の性格がある施設または機械設 備の構成部分もしくは付属物である場合を除く。
CとGの財物は、それが共同の資金で取得された場合でも、その特有財産の性格を喪失しない。しかし、この場合は、(共同資金で)支払われた価額でもって、共同体が所有者である配偶者の債権者となる。
取得財産共同体に属する財物には、次の物がある;
@夫婦のどちらでもその労働または技能により取得された財産。
A特有財産および取得財産が生む果実、収益および利息。
B共同財産の負担で有償取得された財産。共同財産のために取得されたか、夫婦の一方のみ のために取得されたかを問わない。
C(共同)取得財産の性格がある買戻し権により取得された財産。特有資金でなされた場合 も該当するが、この場合は、共同体は(特有資金で)支払われた価額でその配偶者の債務 者となる。
D取得財産共同体が有効な間に夫婦のいずれかが共同財産の費用で設立した事業および施設。
E夫婦の一方に属する用益権または年賦金の権利はその者自身の財物の一部を構成する。但 し、婚姻中に得られた果実、定期金または利息は(共同)取得財産である。
F夫婦の各人が特有財産として持寄った家畜の頭数を共同体解消の時に超えている家畜の頭 数は取得財産とみなされる。
G夫婦のいずれかが賭博で取得した収益またはその他の返還を免除する事由に起因する収益 は、取得財産共同体に属する。
夫婦は、対価または反対給付の出所および弁済方式と期限がいかなるものであろうと、共同の合意により婚姻中に有償で取得した財物に(共同)取得財産の地位を付与できる。 婚姻中に存在する財物は、夫婦の一方に個人的に属していないと証明されない間は、(共同)取得財産と推定される。
(3)取得財産共同体の各種負担
次の事由のいずれかによって生じる費用は取得財産共同体の負担となる:
@家庭の維持、共通の子の扶養と教育および家庭の慣習と状況に適合した予防的仕事。
A共同財物の取得、所持と享有。
B夫婦の特有財産の通常の管理。
C事業の尋常な開拓、または、各人の職業、技術もしくは業務の遂行。
夫婦が共同の合意で贈与したまたは約束した額は、夫婦の一方の特有財産で全部または一部を弁済すべきであると約定していないときは、また、共同体の負担とする。
共同体の債務でもある夫婦一方の債務に、その共同体の財物は、また、連帯して責任を負う。(共同)取得財産は、いずれにしても、夫婦が共同で、または、一方が他方の明示の同意を得て、締結した債務について責任を負う。(共同)取得財産は、また、事実上の別居をしている夫婦の一方が、取得財産共同体が負担する子の維持、保護と教育の費用に当てるために、締結した債務について責任を負う。
(4)取得財産共同体の管理
民法典が取得財産共同体の管理を夫に与えていた以前と異なり、1981年5月13日の法律第11号による修正により、夫婦財産契約で約定がない場合は、(共同)取得財産の管理と処分は夫婦が共同ですることになった。
しかしながら、管理行為の実行において夫婦の合意が必要な場合で、一方が合意を提供できないか、または、不当にそれを拒否しているときは、請求がある場合は、裁判官がそれを補充できる。また、(共同)取得財産の有償処分をなすために一方が合意を拒否した場合は、裁判官がそれを補充できる。
夫婦の各人は、(共同)取得財産の半分を遺言で処分できる。同様に、(共同)取得財産の共同管理のために夫婦は互いにかつ定期的に自己の経済活動の状況と収益について知らせ合わなければならない。
(5)取得財産共同体の解消
所得財産共同体は次の場合自動的に完全に終了する:
@婚姻が解消するとき。
A(婚姻が)無効と宣告されるとき。
B夫婦の別居が裁判上決定されるとき。
C夫婦が本法で規定される方式で異なる夫婦財産制を協定するとき。
所得財産共同体は、また、夫婦の一方の請求で、裁判上の決定により次の場合終了する:
@他方配偶者が裁判上の無能力者であった、浪費者、失踪者もしくは破産状態にあると裁判 上決定された、または、家庭の遺棄により刑に処せられた。
A他方配偶者が自己のみで、詐欺、損害もしくは危険を内包している処分行為または財産管 理行為を、共同体における他方配偶者の権利のために実行している。
B互いの合意によりまたは家庭の遺棄により1年以上事実上別居している。
C自己の経済活動の状況と収益について教示する義務を繰返し履行しない。
次のものは資産に含まれる:
@解消時に存在する(共同)取得財産。
A不法または詐欺的取引により譲渡された財物が回復されなかった場合で、その財物が譲渡 時に有していた価値の現在化額、
B共同体が弁済した、夫婦一方のみの負担であった価額の現在化額、および、一般にその者 に対して共同体が債権者である価額の現在化額。
共同体の負債は次の項目にまとめられる:
@共同体の負担である未決済の負債。
A特有財産が共同体の利益に費消されて金銭で回復されなければならないときの(費消され た)特有財産の価額の現在化額。
B夫婦の一方のみが弁済した、共同体の負担であった数額の現在化額、一般に、共同体に対 して夫婦が債権者である価額の現在化額。
棚卸が終了したら、優先権のある扶養料から始めて、最初に共同体の負債が弁済される。棚卸財産についての(各種)控除がなされたら、残余は取得財産共同体の(純)資産を形成する。これは夫婦間で半分に分けられる。
2.収益分配制
夫婦の収益分配制は、民法典の第1,411〜1,434条に規定されており、収益分配制では、夫婦の各人は、当該制度が有効であった期間中にその配偶者が取得した収益に参加する権利を取得する。婚姻締結の時にその者に属していた財物およびその後なんらかの名義で取得できる財物の管理、享有および自由処分は(取得する)各配偶者に対応する。
収益分配制の夫婦が共同してある財物または権利を取得する場合は、それは不可分の1/2の共有で夫婦に属する。
収益分配制は、先に見たが取得財産共同体の消滅が予定されていると同じように消滅する。また、夫婦の一方の財産の不正規な管理で他方の利益がひどく危うくなるときも終了する。
終了したら、各配偶者の初期と最後の財産間の差額でもって収益が決定される。各配偶者の初期財産は、収益分配制開始の時にその者に属していた財物と権利によって、および、その後、相続、贈与または遺贈名義で取得された財物と権利によって形成されたと評価される。
3.別産制
夫婦の各人が自己の財物の管理、享有と自由処分を留保する財産制を別産制と呼ぶ。民法典第1,437条は、別産制では、その開始時に各配偶者が有していた財物およびその後なんらかの名義で取得した財物はその(取得)者に帰属すると規定している。
別産制は、夫婦の間でそのように協定したとき、および、夫婦が、夫婦財産契約中で取得財産共同体および収益参加制を夫婦間で適用しないと協定したとき、に適用される。
別産制においては、各配偶者が締結した債務はその者の排他的な責任となる。しかし、夫婦は婚姻費用負担に寄与しなければならない。この寄与は夫婦財産契約書に記載されるが、協定がない場合は、それぞれの経済的資源に比例して寄与する。家事労働は婚姻費用負担への寄与と数えられる。この寄与には別産制消滅時に合意がないと裁判官が指示する補償を得る権利が与えられる。
別産制において夫婦の一方が他方の財物または利息を管理していた場合は、その者は、受任者と同じ義務と責任を負う。しかし、収受・消費した果実の計算を提出する義務は、婚姻費用の弁済とは別の目的に投入したと証されるときを除いて、負わない。