スペインの婚姻、夫婦財産契約、別居と離婚
司法書士 古閑次郎
神奈川県司法書士会
スペインの婚姻
スペイン民法典は次の2つの婚姻様式を認めている。(1)民事婚、これは民法典の規則に従って、裁判官またはその法律が決める公務員の面前で締結される婚姻、(2)いわゆる宗教婚、これは法的に規定された宗教的様式で締結される婚姻。後者については、カトリックでない宗教様式で締結される婚姻の例が少ないので、カトリック教会の規則に従って締結される宗教婚のみ説明する。
1.宗教婚
宗教婚は新約聖書の秘蹟の一つで、子孫を産み育て、徳高く教育することを目的とする、男と女の合法的結合を聖なるものとして讃えるものである。婚姻の神聖さ、つまり、その神的起源は、福音書に由来しており、トレントの宗教会議において信条と定義されている。婚姻締結者はこの秘蹟の牧師であり、司祭は教会が認めた単なる証人である。婚姻秘蹟の要件は当事者の意思であり、その意思の表示が様式を形成する。
2.宗教婚の要件
宗教婚挙行の前に、事前に履行すべき要件が存する。つまり、新郎新婦の審査手続きが開始され、新郎新婦が結婚生活に必要な知識を持っているか、婚姻障害の有無、婚姻締結能力を持っているかが確認され、夫婦の義務について教授する。この審査は教区司祭が所管し、そのために、所属教区が異なる場合は、教区司祭は対応する洗礼証明書を要求しなければならない。
その後、婚姻の予告がなされる。この予告により、正当事由による教区司教の免除を除いて、婚姻締結者の住所地または擬似住所の教区司祭がその信者に広く、かつ、ミサおよび他の司祭業務の中で口頭で公表する。公表は、3日曜日またはミサに行かなければならない日に実施される、または、認められるときは文書により教区教会の門に8日間(これはミサにいかなければならない日の2日に相当する)貼って実施される。予告は、婚姻が挙行されないで6月経過すると、教区司教の免除を除いて、再び実施されなければならない。
婚姻挙行時に満たさなければならない要件は次の4つに分けられる:婚姻能力、同意、婚姻障害の不存在、様式の遵守。
(1)婚姻能力
婚姻締結者の肉体的・精神的適応性に基礎を置き、教会法第1,076条によると、男では16歳、女では14歳となる。
(2)同意
これは両当事者の各人が、子孫創出のための適切な行為に関して永久的かつ排他的権利を与え、また、受けることを表明する意思行為である(教会法第1,081条)。同意は、可能であれば、互いに、出席して、自由に、かつ、言葉で外部に表明されなければならない。しかし、仲介者および通訳者を介してなすことが認められている。
瑕疵は、また、同意欠缺による障害とも言われるが、次の場合婚姻を無効にする;
@同意を与える時に理性が欠如していた。つまり、正気の合間に挙行されるようにする。
A婚姻の本質の無知。これは、思春期以降は推定されない。
B仮装または心理留保。適法な同意を与えて婚姻を有効にする義務を課すが、これらの証明 は大変困難である。
C錯誤。人身の錯誤(つまり、人違い)は婚姻を無効にし、人的特質に対する錯誤も婚姻
D異常な、正当でない、外部から与えられる暴力または恐怖。
E誘拐。誘拐された者が誘拐者の支配下にある間。
F条件。それが将来的なもので、婚姻の本質に反する場合。(条件が)不能、不法または見 当はずれではあるが、婚姻の本質に反していないときは、ないものとみなされる。合法的 であると、将来的なものであっても、その効果を発揮する。
(3)婚姻障害の不存在
婚姻締結を禁止する状況は婚姻障害とみなされる。婚姻障害でもっとも重要な分岐点は@婚姻を無効にする障害とA婚姻の不法性をもたらすが、それにも係わらず婚姻締結すると、無効にするものではない障害に分けられる。
@婚姻無効障害
(A)身体的欠陥
次のものが考えられる;
(a)男が16歳未満、または、女が14歳未満である。
(b)男または女が、確かに、事前に、永久的でかつ絶対的もしくは相対的な性的不能である。
(B)身分による非両立
次のものが考えられる;
(a)未成立の離婚。以前締結した婚姻は、たとえ完成していなくとも、パウロ特権を除いて 、後婚を解消する。
(b)宗教的身分。聖職者の階級を持っている者。
(c)宗教的告白。貞節の誓いをした宗教者はすべてこの障害を有する。婚姻しても、その婚 姻は無効である。
(d)洗礼を受けた者と受けていない者の間の宗教の完全な不一致。
(C)親族関係
次のものが考えられる;
(a)直系血族、および、教会法による3親等までの傍系血族、後者は教皇が免除することがで きる。
(b)直系姻族、および、教会法による2親等までの傍系姻族。
(c)洗礼を受けた者、洗礼者および名づけ親の間に存する精神的親子関係。
(d)法律的親子関係。民法に従うと、婚姻障害を持つとされる者。
(D)犯罪
次のものが考えられる;
(a)婚姻の約束を伴う姦通。
(c)配偶者殺害に姦通があった場合。
A(無効ではない)障害
次のものがある;
(a)単純な誓約。つまり、貞節の誓い、婚姻しない誓い、および、宗教的状態を信奉する誓 い。
(b) カトリック信者と異教徒または分離派の者との間の混合宗教。
(c)神に見捨てられた者、公に罪深い者、非難される者、宗教的無関心者、または、セクト 主義者。
一方、これらの障害を停止させる様式は、各場面において個別に権限のある上位聖職者が与える免除である。免除できるものか、できないものかを区別するが、法王庁がどれに当たるか宣言する権限を有している。
(4)様式の遵守
婚姻を有効にするには、次のことが必要である;
@挙行地の教区司祭もしくは司教またはそれらを代表する司祭および少なくとも2名の証人 の前で挙行すること。
A教区司祭または司教が、聖務または聖職禄の地位を取ったこと。
B婚姻が(教区司祭または司教)のその管轄エリア内で挙行されること。
C(教区司祭または司教が)婚姻挙行者の自由な同意を要求し、受けること。
D婚姻が新婦の教区司祭の前で挙行されることが、許容された代表を除いて、規則である。
婚姻が挙行されたら、婚姻挙行の事実が教区婚姻簿に登録され、洗礼記録簿に記入される。また、挙行者が他の教区で洗礼を受けていた場合は、対応する教区司祭に通知する。また、宗教婚挙行後(挙行に立ち会った)司祭は直ちに夫婦に身分登録簿への登録に必要なデータともに教会の証明書を発給する。更に、挙行地の教区司祭は5日以内に身分登録署の責任者に宗教婚証明書を、関係当事者の要請では身分登録がなされない場合に備え、その適宜な登録のために送達する。
2. 民事婚
民事婚の挙行の前に、婚姻審査をする必要がある。これは、将来の夫婦がその住所地の身分登録署に両者の署名がある申請書を提出することで開始する。その申請書には、両者の氏名、年齢、職業および住所、更に、それぞれの父母の氏名とデータが明記される。その申請書には2名の証人の宣言、夫婦各人の出生証明書、生存証明書、および、住所地の市役所発行の住民登録証明書を添付する。
婚姻審査をする裁判官は、なにか婚姻障害があることを知っている者が裁判官にそれを知らしめるために、15日間、婚姻挙行意図を発表する婚姻告示をなすよう命じる。この公示は、挙行者が最後の2年間居住していた所にある裁判所の掲示板になされる。
(1)婚姻能力
2005年7月1日の法律第13号は、同性同士の婚姻について異性間の婚姻と権利・義務において完全に同一であるとして民法典を修正した。よって、婚姻の効果は、全ての場合において、同一となる。例えば、社会的権利と給付、または、養子縁組手続きにおいて当事者となる可能性に関して。当然なことながら、性に関わる民法典および身分登録規則の多くの条文がこの新事態に適合されている。夫と妻と言っていたことは、配偶者と言い変えられるであろう。この重大な修正でもって、スペインは、性別の結果としての差別がない全ての人の完全な平等性についてもっとも進んだ国となった。
婚姻締結能力は、民法典によると、締結者が備えるべき特性によるのではなく、消極的形式で表わされる。つまり、婚姻できない者は次の者たちである;
@親権から解放されていない年少者。
A(現に)婚姻関係にある者。
B直系血族関係または養親子関係にある親族同士。
C3親等までの傍系血族同士。
Dその一方配偶者の故意の死亡の主犯または共犯として罰された者同士。
法務省は、当事者の請求により、前配偶者の故意の死亡による障害を免除できる。また、第一審の裁判官は、正当事由の存在および当事者の請求で、傍系3親等と14歳からの年齢による障害を免除できる。年齢の免除の発給においてはその年少者およびその両親または後見人の意見を聴かなければならない。事後的免除は、両当事者のどちらからも裁判上その無効を申立てられていない婚姻を、婚姻挙行時から有効にする。
(2)婚姻の挙行
婚姻挙行を認証できる者としては;
@身分登録を担う裁判官
A上記の裁判官がいない市町村では、市(町村)長または身分登録規則で指名される代理人。
B外国では身分登録を担う外交官または領事。
婚姻を希望する者が死亡の危急にある場合は、民法典は次の者が婚姻を認証できるとしている:
@身分登録を担う裁判官、その代理人または市(町村)長、たとえ挙行者が該当区域に居住 していなくとも。
A裁判官がいない場合で戦場にある軍人については、士官または直属上官。
B船上または航空機内で挙行される婚姻については、船長または機長。
この婚姻では、その認証のためには(婚姻)調書の先行的作成は必要なく、2名の成年者である証人が挙行場所に参列することを、その不能が証される場合を除いて、必要とする。
通常の婚姻挙行では、前述の行政的婚姻調書作成の後で、裁判官または公務員は挙行者に民法典第66条、67条および68条(夫婦の権利・義務)を読み聞かせなければならず、そして、各人に婚姻挙行に同意するか、また、この行為で婚姻を有効に挙行するか尋ねる。両者が肯定的に答えると、挙行者は婚姻で結合されたと宣言し、対応する登録をなすか、記録する。その際は、裁判官または公務員、挙行者および証人は署名する。そして、婚姻挙行証明書(家族証明書)を挙行者に発行する。
(3)夫婦の権利・義務
夫婦の権利・義務は、民法典第66条〜71条に規定されており、次のとおりである;
@夫婦は権利・義務において同等である。
A夫婦は、互いに尊敬し、助けあい、家族の利益のために行動しなければならない。
B夫婦は同居し、互いに貞節を守り、扶助する義務を負う。更に、家庭上の債務および尊属・卑属・その他の被扶養者への配慮を共有する必要がある。
C夫婦は、協定して夫婦の住所を定める。紛争があると、裁判官が家族の利益を考慮して解決する。
D 夫婦の一方は、他方の代理を、授与されなかったときは、引受けることはできない。
(4)婚姻の無効
婚姻は、その挙行方式がなんであっても、次の場合無効である:
@合意なしに挙行された婚姻。
A法律上婚姻できない者たちの間で挙行された婚姻。
B裁判官または公務員の介入なしに、または証人の介入なしに挙行される婚姻。
C他方挙行者の人違いで挙行された婚姻、または、同意提供を決定的にしたところの(他方 の)人的特質を誤解して挙行された婚姻。
D強迫または非常な恐怖により挙行された婚姻。
婚姻無効請求訴訟は、夫婦、検察庁およびそれに直接かつ適法な利害を有する何人も提起することができ、婚姻無効の判決は、子および善意の挙行者に関して生じた効果を無効にはしない。善意は推定される。